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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

プリシラ

問題作だった。それは感情の部分で映画の恋を応援できない思いと自分の偏見ではないかという思いが交差したからだ。確かにソフィア・コッポラは少女の心の揺れを描くのが群を抜いて上手い。とても客観的な視点で光景のように描くからある年頃の幻想にさえ見えてくるのだ。それと同時に衣装の色合い、デザイン、美術、アイテムから世界を紡ぎ上げていき、見惚れる空間を生み出すセンスがあるから「美しい」と表現したくなる。しかしながらプリシラとエルヴィスの恋は誰もが羨むものかといえばそうではなく、映画から読み取るエルヴィスは14歳のプリシラを「おチビちゃん」「子ども」と言いながら自分の世界に引き込もうとやさしげに手ほどきをしていく。現にセリフの中に「その服装は君に似合わない」「僕が声を聞きたい時にそこに居て欲しい」という言葉が出てくる点で、エルヴィスはプリシラを自分の都合の良い女性に仕上げていく。 けれど本作はプリシラ・プレスリーが製作指揮を務めているのだから、彼女もそのことについて納得しているのだ。更にソフィア・コッポラがプリシラにもエルヴィスにも同調するような描き方をしていないのが逆に良い。このふたりの関係、あなたはどう思う?と問うような映画の中で、女性側に焦点を当て、成長物語にまでしてしまったのだから。

24/4/12(金)

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