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注目の若手指揮者がクラシック初心者も安心の公演を紹介
坂入 健司郎
指揮者
N響ゴールデン・クラシック 2024
24/5/3(金)
東京文化会館 大ホール
5/3(金・祝)15:30開演、上野・東京文化会館大ホールにて「N響 ゴールデン・クラシック 2024」が開催されます。木嶋 真優さんをヴァイオリニストに迎えて、ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲を、後半にはショスタコーヴィチの交響曲第5番を演奏します。 指揮は私が務めます。NHK交響楽団の皆様との共演はこの演奏会が初めてで、まさしくデビュー・コンサートとなります。ぴあの「水先案内人」を読んでくださっている全ての皆様に、是非とも聴きにきていただきたい演奏会です。 木嶋 真優さんがソリストを務めるハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲。一昨年の兵庫芸術文化センター管弦楽団や昨年の東京フィルハーモニー交響楽団との共演でも、素晴らしい名演奏を披露されており、ご一緒することが今から楽しみです。ソヴィエトで活躍しながらもアルメニアの歌と踊りを大切にしたハチャトゥリアン。第1楽章の超絶技巧のヴァイオリン独奏に酔い、悲哀のこもった第2楽章の歌心、第3楽章の強烈な踊りに虜になることでしょう! そして、ショスタコーヴィチの交響曲第5番。1930年代のソヴィエト。スターリンによる「大粛清」が本格化した時代。国民的演出家・俳優のメイエルホリドは残虐な拷問の末に処刑され、国民的作家のゴーリキーは政府に軟禁されたまま病死。毒殺説が囁かれました。ショスタコーヴィチもご多分に漏れず、粛清の対象にされ始めます。彼のパトロンだったソヴィエト軍の名将トゥハチェフスキー元帥が1937年6月にスパイ容疑で処刑されてしまったからです。絶体絶命の状況に追い込まれたショスタコーヴィチは1937年に僅か約3ヶ月で、この交響曲第5番を完成するのでした。絶体絶命の状況につき、この作品には起死回生を図る入念な準備が施されていました。プログラムには「交響曲が全体として物語るのは勝利によって完結する長い精神的な闘いである」と簡潔な内容説明を加え、古典的な単純明瞭な構成で、ソヴィエト革命20周年という記念すべき年に捧げられたこともあって、政府のお眼鏡にかなう大絶賛を勝ち取ることができました。こうしてショスタコーヴィチは見事復権したのです。 しかし、名誉回復のために迎合した作品というだけならば、本作は今日まで演奏されていなかったことでしょう。絶体絶命の状況にも関わらず、タダでは転ばないところが天才作曲家ショスタコーヴィチ。当時、ショスタコーヴィチが恋仲にあったエレーナ・コンスタンチノフスカヤへの恥ずかしいまでの愛の告白(ラブレター!)があったり、当時政府から大弾圧を加えられてたロシア正教の鎮魂歌《パニヒダ》の一節を引用して苦悩の時代に虐げられた人々へのレクイエムとなる場面も紛れ込ませています。「名曲が名曲たる所以」と叫びたくなるほど、多面的に作品を紐解くことができる工夫が施されおり、現代の聴衆にも強烈な追体験を生むのです。 また、会場の上野・東京文化会館はショスタコーヴィチの交響曲第5番の多くの名演を見届けてきた伝説のホールです。CD化された1973年のレニングラード・フィルと本作初演指揮者ムラヴィンスキーの演奏や、1979年のニューヨーク・フィルハーモニックとバーンスタインの歴史的名演はもちろんのこと、1986年にはソヴィエト文化省交響楽団とロジェストヴェンスキーが、1987年にはソヴィエト国立交響楽団とスヴェトラーノフがいずれも壮絶な演奏を繰り広げ、全国に放送されました。 そんな伝説のホールで、世界有数のオーケストラ、NHK交響楽団の演奏で聴くショスタコーヴィチの交響曲第5番。ゴールデンウィークの初日に是非、体験しに来て頂けたら幸甚でございます。ご来場、心よりお待ちしております。
24/4/14(日)