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平辻 哲也
映画ジャーナリスト
悪は存在しない
24/4/26(金)
シモキタ-エキマエ-シネマ K2
濱口竜介監督作品を見ると、「面白い映画とは何か」を考えさせられる。大仕掛けなSFXもない、数千人のエキストラが出たスペクタクルなシーンがあるわけでもない、トム・クルーズのような人気俳優が真ん中にいるわけでもない。だけど、面白い、引き込まれる。 本作の出発点は映画ですらない。『ドライブ・マイ・カー』の音楽、石橋英子から「ライブで流す映像を作ってほしい」と頼まれたのがきっかけ。それが、グランピング場開発が持ち上がった山中を舞台に揺れる人間模様を描く映画になった。製作体制は10人規模。主役は無名どころか、役者でもない。ロケハンドライバーだった映画スタッフの大美賀均。その彼がまるで山に暮らす男そのものに見える。 濱口監督の演出はどんな作品でも本読みから始まり、出演者とのコミュニケーションの時間をしっかり作るのが特徴。本作でも同様だったそうで、リアルな世界を構築する。特に感心するのは時間の運び方。人間の生理をよく分かっていて、長回しも見ていて気持ちいい。最後には大きな問いかけがあって、余韻を残す。鑑賞後の時間まで計算し尽くされている。
24/4/19(金)