時代劇だが、本能寺の変や忠臣蔵といった大事件を背景にしたものではなく、ひとりの武士の個人的な物語。テーマは武士としてのプライド。主人公は、プライドが高いがゆえに、職を失い、貧困で、娘も失いかける。
古典落語「柳田格之進」をもとにした、加藤正人によるオリジナル脚本(文庫で出ている小説は、加藤によるノベライズ)。原作の落語は人情噺なのだが、映画は草彅剛演じる主人公の「過去」と復讐譚など、新たに創作されたエピソードもあり、より複雑な人間ドラマになっている。
浪人となっている主人公は、長屋の家賃も払えない困窮生活。みすぼらしい外見だが、その内には強固なプライドがあることを、草彅はセリフではなく、眼で語る。圧倒的な存在感。
その娘が清原果耶で、見かけは貧乏な町人の娘だが、武士の娘としての秘めた力強さを感じさせる。
小泉今日子が吉原の遊郭の女主人の闇を抱える二面性を巧みに演じている。江戸文化の粋のように語られる吉原が、見かけはきらびやかでも、性とカネの欲望にまみれた世界であることを、きちんと描いている。
刀ではなく、碁での勝負のシーンが何回も出てくる。碁盤が映るので詳しい人が見れば、どの程度の腕前なのか分かるのだろう。
全編にわたり、美術がすばらしい。江戸の貧乏長屋、立派な商家、吉原の遊郭などが、見事に再現されている。