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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介
佐々木 俊尚
フリージャーナリスト、作家
ある一生
24/7/12(金)
新宿武蔵野館
世界的なベストセラーが原作とあって、物語の骨格がたいへんしっかりしている。オーストリアのアルプス山麓で孤児として育ち、ガッシリとした青年労働者となり、結婚し、近代化が進む20世紀の風景の中で、やがて老いていく。さまざまに起きるできごとは、大いなる歴史の中ではわずかなマッチの炎に過ぎないけれど、ひとりの個人としては大きい。そういう風雪の中で主人公は生きていく。それは21世紀的な承認欲求などとはまったく無縁で、自分自身の中に積み重なっていくさまざまな思い出とともに彼は自分の人生を生きているのだ、というメッセージがひしひしと伝わる。実に深々と心に刺さる傑作だった。 年齢ごとに3人の俳優が演じてるのだが、特に老年役の人がたまらないほどに愛おしい演技。傑作である。
24/7/14(日)