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恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

石川泰地監督特集「一部屋、二人、三次元のその先」

なんでもないような風情で観客を思いがけない境地に連れていく。ぴあフィルムフェスティバルで連続入選を果たした、石川泰地監督による2作品の特集上映。いずれも、作品の大半は、アパートの一室に閉じこもっている男と、久しぶりに訪ねてきた大学時代の友人のおしゃべり。モラトリアム男子の小さな物語と思いきや、思わぬものがたちあらわれる。石川監督は1995年生まれ。早稲田大学在籍中から自主映画を制作してきたという。 今回、上映される2作は『巨人の惑星』(上映時間25分)と『じゃ、また。』(同52分)。いずれも、若いけれど、いつまでもそのままではいられない(と世間的には思われている)年ごろの男ふたりをめぐる話で、演じるのは、石川自身と国本太周。石川が演じる人物はどちらかといえば常識的な思考回路の持ち主で、国本はそこに風穴をあける役回り。世間が奨励するのは、外に出て現実を見ることだけれど、その逆にむかってみなければたどりつけない深淵だってある。転がっていくふたりのおしゃべりの時間に身を浸していると、確かにそう思う。深淵の手触りを感じさせる『巨人の惑星』も、目にものみせる『じゃ、また。』も、ぜひ映画館で体験したい作品。とりわけ後者は、とりわけテアトル新宿で。

24/5/2(木)

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