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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

猿の惑星/キングダム

とにもかくにも、「廃墟」好きにはたまらない。いまから300年後の地球が舞台なので、ビルも道路も発電所も天文台も何もかも、朽ち果てて植物が生い茂る廃墟となっている。これだけでも、見ごたえがある。 しかし、それはあくまで「背景」だ。 物語は、タイトル通りの、猿の惑星の物語。セリフのある人間は数人しか登場しない。 2011年の『猿の惑星:創世記』から始まった3部作の続編という位置づけで、猿のリーダーとなったシーザーが亡くなったところから始まる。それから何世代もたっていて、猿たちはシーザーを知らない。人間と猿の戦いも、とっくに終わり、人間は絶滅しかけている。 冒頭の30分ほどは猿たちの成長の儀式や友情や、ほのかな恋愛、そして親子の物語だが、その集落の侵略者(これも、もちろん猿)が襲来するのが最初の山場。 人間と猿との最終戦争の後は、猿と猿との間で、独裁者とレジスタンス的な対立が生まれている。猿も人間と同じなのだ。 これまでにない重要なキャラクターとして、イーグル(鷲)が登場する。それもあって、アクションシーンの大半は垂直方向に猿たちが移動する。この縦方向のアクションは冒頭から、前半と後半の二つの大戦闘シーンでも一貫しており、眼の前にあるスクリーンは横に長いのだが、スマホで縦長の動画を見ているような感覚になる。こんな動きはとても人間にはできないので、猿が地球を支配してしまうのも当然かと思えてしまうほどだ。 東西冷戦を背景にした1960年・70年代の最初のシリーズでは、人類文明が滅びたのは核戦争が原因だったが、『創世記』からのシリーズではウイルスによる感染症で壊滅するという設定で、いま思えばコロナ禍を予見していた。この『キングダム』は独裁者が自らの王国を作ろうとして、他の部族を征服する話なので、これもまた、いまの世界情勢を先取りしているようだ。 フレイヤ・アーラン演じる人間側の主人公は寡黙で。彼女の背景が何も見えないまま物語は進み、クライマックスを迎える。そして後日談的な平穏な日々が描かれたかと思ったら、驚愕のラストシーンが待っていた。これは1968年の最初の『猿の惑星』のラストに匹敵する衝撃だ。

24/5/9(木)

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