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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断

今でも「潜水艦映画」から目を離せないのは、高校生のときに観た『眼下の敵』(1957)の影響だと思う。第二次大戦下、南大西洋上で遭遇したアメリカの駆逐艦とドイツの潜水艦の戦闘を描いた海洋戦争映画の傑作。潜水艦のミサイル攻撃、対する駆逐艦の爆雷による戦闘シーンの迫真性、両艦長の智略を尽くしたサスペンスフルな頭脳戦が素晴らしい。細かいことだが、クルト・ユルゲンスが扮した潜水艦艦長がドイツ軍人でありながら「ヒトラー嫌い」、という登場人物の緻密な設定も物語を奥深いものにしている「潜水艦映画」だ。 そんな映画体験から、『U・ボート』『レッド・オクトーバーを追え』『K-19』など「潜水艦映画」にはつい思い入れを深くしてしまう。最近では、『ハンター・キラー 潜航せよ』(2018)、『ウルフズ・コール』(2019)、『バトル・オブ・サブマリン』(2022)など、本数は少ないながらも「潜水艦映画」がコンスタントに公開されているのは喜ばしい限り。本作『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』はその最新作で、艦長以下、乗組員全員がイタリア人という初めて見るイタリア製「潜水艦映画」だ。 1940年、ジブラルタル海峡に向っていたイタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは、船籍不明の貨物船を撃沈。だがそれは中立国ベルギーの貨物船と知った艦長のトーダロが、艦の危険を省みず乗組員を救出し最寄りの港まで運んでいく、という物語。敵国船の乗組員を救助したという実話を基に、イタリア海軍の全面協力を得て実物大の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニを再現したというのがセールス・ポイントだ。確かにCGでは再現できない潜水艦の重厚な質感を感じさせる造形のリアリティが素晴らしい。また「潜水艦映画」でありながら戦闘描写よりも、人命救出に力点がおかれているのも本作の特色であり見どころだ。 監督は本作で2度目のヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出されたエドアルド・デ・アンジェリス。主演はイタリア映画の巨匠たちに重用されてきた名優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。 余談だが、コマンダンテ・カッペリーニはイタリア降伏、ドイツ敗戦によって日本軍の「伊号第五百三潜水艦」となり、日本軍降伏後に連合国によって紀伊水道で海没処分された、という。ここからはさらに奇譚めくのだが、日本軍下でも日本側についたイタリア人水兵が乗艦しており、彼らは戦後も日本に残り遺族は現在も日本で暮らしている。本艦をモチーフにしたスペシャルテレビドラマ『潜水艦カッペリーニ号の冒険』(二宮和也主演、ホイチョイ・プロの馬場康夫が監督)は、2022年正月に放映されて話題となった。何だか凄い、怖いお話。そんなことを思いながら本作を観ると、一段と感慨深いものがある。

24/6/11(火)

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