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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

台湾巨匠傑作選2024

2014年から始まった「台湾巨匠傑作選」、今年はその8回目(2015年、17年、22年は未開催)を迎える。今回の最大のポイントは、劇場初公開2作品を含むワン・トン監督の《台湾近代史三部作》『無言の丘』『村と爆弾』『バナナパラダイス』の一挙公開だ。 過去の「傑作選」では台湾映画の知られざる名作・佳作を数多く教えられた。なかでも最大の収穫は、2020年に本邦初公開された『バナナパラダイス』を観られたことだろう。1989年製作の本作(ホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』と同年製作)がなぜ30数年間も公開されなかったのか、という疑問は措くとしても、『バナナパラダイス』は大陸から台湾に渡った中国人の苦難の人生を描いた、紛れもなく『悲情城市』に勝るとも劣らない傑作だった。 「台湾巨匠傑作選2024」の公式サイトで主催者のオリオフィルムズ代表の鈴木一氏は、パンフレットへの寄稿を依頼し続けた故佐藤忠男氏から、「台湾映画はホウ・シャオシェン、エドワード・ヤンだけじゃない、『スーパーシチズン 超級大国民』やワン・トンの三部作『無言の丘』『村と爆弾』『バナナパラダイス』という傑作もある」と教えられたと書いている。一昨年鬼籍の人となった佐藤氏が、かねてから推奨していたワン・トン監督の《台湾近代史三部作》一挙上映がようやく今回、実現したことになる。 その《台湾近代史三部作》を詳述する紙幅はないが、一作目は第二次世界大戦下での日本統治時代の農村を舞台に、不発弾に翻弄される村人の右往左往を描いたコメディ『村と爆弾』(1987)。二作目が『バナナパラダイス』。三作目がゴールドラッシュに湧く日本人が経営する台湾の鉱山を舞台に、貧しい台湾人兄弟と彼らを取り巻く複雑な人間模様を描いた『無言の丘』(1992)だ。三作に共通しているのは骨太のリアリズム描写で、時代の流れに翻弄される無知な庶民を愛情豊かに、ユーモアたっぷりに描く歴史観だ。 『バナナパラダイス』は、1949年、ふたりの中国人青年が荒涼とした中国華北から国共内戦中の国民党軍に潜り込み、バナナがたわわに実る南国台湾にやって来たところから始まる。彼らはやがて共産党スパイの容疑をかけられたことから離れ離れになって逃走、台湾各地を転々とする人生を余儀なくされる、という物語。他人になりすましながら激動の時代を生きたふたりの男の数奇な運命に、台湾の歴史のうねりが重なる。自身も幼少期、家族とともに中国から台湾に移り住んだというワン・トン監督の体験が反映されている作品。歴史に翻弄された国民の苦しみが奥深く描かれている傑作だ。 ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤンらとともに「台湾ニューシネマ」を牽引したワン・トン監督だが、なぜか海外での評価はふたりの作品に及ばない。なぜなのか? 改めて今年の「台湾巨匠傑作選2024~台湾映画の傑物 ワン・トン(王童)監督と台湾ニューシネマの監督たち~」を通して考えてみたい。

24/6/22(土)

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