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「これは絶対に観逃してほしくない!」という“埋もらせ厳禁”な映画を紹介します
LiLiCo
タレント、映画コメンテーター
ロイヤルホテル
24/7/26(金)
ヒューマントラストシネマ有楽町
フィンランドからバックパッカーとしてオーストラリアに来たハンナとリブ。彼女らは親友同士で、楽しい節約旅行をしていましたが金欠状態に。たどり着いた荒れ果てた田舎町にあった古いパブ「ロイヤルホテル」に滞在し、バーテンダーとしてワーキングホリデーを楽しもうということに。 ただの接客業……と思いきや、彼女たちを待ち受けていたのは壮絶なセクハラ、パワハラ、ジェンダー差別の嵐! 客はもちろんのこと、店長は常に酔っ払いで、彼女らを守るどころかハラスメントの連続。即辞めたいのはやまやまながら、ふたりにはお金がないので出ていくわけにもいかず。 リブはその状況に溶け込んでなんとかやり過ごすことができたものの、まじめな性格のハンナはハラスメントや差別発言を受け入れることができず、どんどんと孤立していきます。やがて親友同士だった彼女らの関係にも変化が……。 私も日本に来たばかりの若い頃に、飲食での接客アルバイトをしていただけに分かるんですが、酒場でのハラスメントはどの国に行っても当たり前にありますよね。おまけにこの作品の舞台となっているのは、シドニーやブリスベンのようにジェンダーの平等が当たり前ではない、『プリシラ』に出てくるような砂漠の田舎町。 そもそも男尊女卑が顕著で、男たちは女性の扱いに慣れていないし、慣れる気もありません。そういうところで暮らしている男性がどうなるかといったら、想像どおりですよ。男としての権威を誇示するだけ。本当にバカバカしい価値観だけど、あるんですよ、今でも。 この映画で出てくるハラスメントは本当にさまざま。ケンカや性差別はもちろん、ドラッグ問題などなど本当にありとあらゆるハラスメント、バイオレンスが繰り広げられます。でも、これって今の社会にも必ずあること。当たり前、と思ってしまうのは簡単なんだけど、これを喫緊になくしていくべき問題と思わないといけないですよね。それが若い女性ふたりをターゲットにすることで、問題が分かりやすく表現されているんです。 また、このふたりの関係にも注目。そもそも彼女ら親友同士っていってるけど……きっと10年後には友だちでも知り合いでもなくなってるよね、と思うはず。この環境がそうした、と思うかもしれませんが、私はそうでもないと思います。 本当に心許す友だちというのは、価値観を共有できる人。そうでないと、どこかで歯車が合わなくなるし、それをストレスに感じるようになってギクシャクしちゃうもんですから。人間関係の育み方、選び方についても考えさせられると思いますよ。
24/8/3(土)