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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

愛に乱暴

江口のりこという役者にしかこの役は演じられないと思うほど、物語の中で主人公は呼吸していた。原作は映像化したくなる筆を持つ吉田修一。人間関係の歪みがミステリーとなり、私たちをいつの間にか取り込んでしまう作家だ。この原作を映画化した森ガキ侑大監督は、劇映画はもちろん、『人と仕事』(2021)でドキュメンタリーも経験しており、それも踏まえた上で舞台経験豊富な江口のりこの演技力を確信し、本作では長回しに挑戦している。 そのお陰で、ロケで見つけた家をもうひとつの登場人物にすることも成功し、目と鼻の先の実家前での江口のりこ演じる主婦と風吹ジュン演じる義母とのやりとりが、なんともリアルで悍ましいのだ。劇映画はロケーションと俳優の演技によってリアルへと近づいていく。きっと森ガキ監督はそのことを理解し、今回、キャスティングにもこだわったのだろう。 なんと言っても夫役の小泉孝太郎が別人のようで目を惹く。今までの声色とも違うし、外見も全く違う。だから興味を持つし、面白い作用を映画に生むのだ。この組み合わせのアンバランスさが極上のミステリーに変化していく。そして映画という視覚で表現する物語で、トリックが生まれるのだと気付かされ唸った作品だった。

24/8/18(日)

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