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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
チャイコフスキーの妻
24/9/6(金)
新宿武蔵野館
モーツァルトを描いた『アマデウス』のように、大作曲家を描く映画は、その人の作品が劇中で演奏され、背景音楽としても使われることが多い。 そういう「音楽映画」を期待して、つまりチャイコフスキーの名曲の数々が映画のなかで聴けるだろうと思うと、見事に裏切られる。 これは「音楽映画」ではないし、「音楽家を主人公にした映画」でもなく、タイトルの通り、大作曲家の妻となった女性の悲劇を描いた映画だ。チャイコフスキーに限らず、天才芸術家は同時に奇人・変人でもある。それでも、人間的魅力があるように描かれるものだが、この映画でのチャイコフスキーはいやな男である。チャイコフスキーが好きな人は、見ないほうがいいかもしれないと思うほど。 この映画は、チャイコフスキーが同性愛者だったという説に基づいて描く。同性愛であることは批判されることではないのだが、それをカムフラージュするために、好きでもない女性と結婚したことで、悲劇が生まれるのだ。 「チャイコフスキーの妻」については、その結婚が不幸な形で終わったこと、いつまでもチャイコフスキーにつきまとうストーカーのような人だったらしい、という程度のことは知っていた。最近になって彼女についての研究が進み、史料も出てきたようで、そういう最新の学説も取り入れられているようだ。 当時のロシア社会の封建制のなかでの悲劇でもある。 過激な性的シーンもあるので、チャイコフスキーの名曲を楽しみにいくと、完全に裏切られる。しかし、人生ドラマとしてはなかなか奥が深く、堪能した。
24/9/6(金)