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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

傲慢と善良

タイトルを最初に見た時、オースティンの『高慢と偏見』みたいだな、と思ったら、映画のなかで、年長者が、「昔の若い人の結婚観には、高慢と偏見があったが、いまは傲慢と善良だ」と言って、タイトルを回収して、納得した。 人間は矛盾のかたまりだから、ひとりのなかに、傲慢と善良が同居して、不思議ではない。 哲学的なのはタイトルだけで、ストーリーは定番の恋愛もの。マッチングアプリでの婚活、若者間での格差、いつまでも干渉する母と抑圧される娘、都会に疲れた若者が地方へ行くといった、現代社会のあれこれを背景にして、1組のカップルの出会いと瓦解、再会が描かれていく。 春に公開された『四月になれば彼女は』でも婚約者の女性が結婚直前に姿を消してしまったし、去年秋の『アナログ』も付き合っていた女性が音信不通になる話だった。男性がいなくなった女性を探す過程で、彼女の過去が明かされて行くのは3作とも同じ。男が自分の彼女について何も分かっていないことが分かるのも同じだが、似ているのはこの物語構造だけで、ストーリーはまったく違う。とくに、彼女と再会した後までも描かれるのが大きな違い。はたして元の関係に戻れるのか。 原作はベストセラーで、主人公と同じ30歳前後の世代の共感を呼んでいるという。私はその親の世代なので、「時代は違うけど共感できる」と言ったらウソになるが、ひとつの物語、恋愛・心理ミステリーとして面白く見た。

24/9/19(木)

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