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水先案内人のおすすめ

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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介

佐々木 俊尚

フリージャーナリスト、作家

シビル・ウォー アメリカ最後の日

レオナルド・ディカプリオが主演した映画『ザ・ビーチ』の原作を書いて気鋭の作家として注目されていたアレックス・ガーランドは、その後映画界に転じて脚本を書くようになり、2015年のSF『エクス・マキナ』では映画監督としてデビューした。ヒューマノイド型のロボットの知性を扱った同作は高い評価を受けている。実に「才気溢れる」という形容詞がぴったりのガーランド監督が気鋭の制作会社A24と組んだ、満を持しての新作が本作である。 近未来のアメリカの内戦を描いているというと「荒唐無稽」と感じる人もいるかもしれない。しかし現在のアメリカでは共和党と民主党の分断が極限にまで深まり、政治学者などのあいだでも「内戦が起きるのではないか」と真面目な議論が展開されているほどだ。だから本作の設定は決してあり得ない話ではなく、多くのアメリカ人に恐ろしくリアルに受け止められたのは間違いない。劇場公開とともに全米1位を獲得したというのもうなずける。 本作が秀逸なのは、内戦の全体像がまったく描かれないことだ。何が起きているのかは、主人公たちの会話やニュース映像の断片でしかわからない。なにゆえか独裁化した大統領に対し、カリフォルニアやテキサスなどが連合を組んで州兵を動員し、政府軍との戦闘を開始したという程度しかわからない。そういう状況の米大陸を、主人公の女性ジャーナリストとその仲間たちがクルマで移動していくというロードムービー仕立てになっている。映像は徹底的に主人公のミクロの視点で描かれ、近接的な銃撃戦はひたすら恐ろしく、目の前で次々と人が死んでいく。政治的分断の末のリアリティを究極にまで推し進め、ただひたすら「アメリカで内戦が起きたらどうなるか」という恐怖だけが積み重ねられていく。首都も戦場となり、ホワイトハウスは銃撃戦の白煙の中に呑み込まれていくのだ。とにかく、米大統領選を前にしたいまこそ見るべき傑作である。

24/10/1(火)

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