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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

八犬伝

1954年から1959年にかけて8作品が公開された東映チャンバラ映画『里見八犬伝』シリーズ。その時代に幼少期を過ごした団塊世代には、同シリーズに胸躍らされ映画ファンになった人が多い。製作者の角川春樹は典型的なそのひとりで、角川映画10年の総決算として映画化に取り組んだのが、1983年の深作欣二監督作品『里見八犬伝』だ。 だが角川の意気込みにもかかわらず、『里見八犬伝』はクランク・イン前からトラブルが多発。それは、角川が脚本家の鎌田敏夫に「『南総里見八犬伝』をベースに『レイダース』『スター・ウォーズ』のようなアメリカ的アクション映画風に」と注文した脚本を、深作監督が『魔界転生』のようなオカルティックな世界に変えてしまったことが主因だった。薬師丸ひろ子、真田広之の人気スター共演作とあってヒットはしたが、作品評価は低く、キネマ旬報ベスト・テンでは圏外、VFXパートではあまりの稚拙さに劇場内に失笑がおきたといわれた。 前説が長くなったが、そんな映画化の歴史がある滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』を忠実に、正統的に映画化しようと試みたのが本作『八犬伝』だ。 原作は山田風太郎の同名小説で1982年から朝日新聞夕刊に連載された後に出版され、現在は『八犬伝 上・下』として角川文庫より刊行されている。“山田『八犬伝』”の最大のポイントは、馬琴のオリジナル小説の軽妙な現代語訳と、浮世絵師・葛飾北斎と馬琴の奇妙な友情物語が交互に構成されている、という点だ。なぜ北斎なのか? 馬琴の名を世に知らしめた『椿説弓張月』の挿絵を北斎が描き、以降ふたりはお互いの才能を認め合いながらもそれに嫉妬しあう、愛憎相半ばする関係だったからだ。 本作はその“山田『八犬伝』”に忠実に作られた時代劇アクション映画。里見家の呪いを解くため八つの珠に引き寄せられた八人の剣士の運命を描く『八犬伝』篇と、その物語を創作する作家・滝沢馬琴と浮世絵師・葛飾北斎の奇妙な友情を通して描かれる「人間ドラマ」が交錯する新たな『八犬伝』映画になっている。つまり、痛快な時代劇アクションと、文化10年(1813)の江戸の町で作家と画家がどんな交流をしていたのを垣間見ることができる、お得感満載の異色時代劇なのだ。 キャストも、馬琴に役所広司、北斎に内野聖陽、馬琴の女房お百に寺島しのぶ、長男に磯村勇斗、その妻に黒木華、その他、土屋太鳳、栗山千明など豪華絢爛だ。監督・脚本は『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』の曽利文彦があたっている。今年は『侍タイムスリッパー』『十一人の賊軍』、配信作品だが『SHOGUN 将軍』(エミー賞18冠!)など時代劇の当たり年だが、そのなかでも群を抜いて面白い時代劇としておススメしたい。

24/10/4(金)

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