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演劇鑑賞年300本の目利き
大島 幸久
演劇ジャーナリスト
『セツアンの善人』
24/10/16(水)~24/11/10(日)
世田谷パブリックシアター、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
何と言っても注目するのは白井晃が上演台本と演出を担当する『セツアンの善人』だ。ドイツの劇詩人で劇作家ベルトルト・ブレヒトの代表作の第一は『三文オペラ』だろうが、寓意劇であり音楽劇であり、娯楽劇でもある今作はやはり代表作のひとつだ、と思う。日本では新劇界が中心的に多く取り上げており、特に劇団俳優座のレパートリー作品、十八番である。かつて市原悦子、栗原小巻が出演を果している。 主役には魅力的な演技力が求められる。心優しき娼婦シェン・テと冷酷な青年シュイ・タの二役を演じ分けねばならないからだ。架空の町セツアンの貧民窟に住むシェン・テは、善人を探すため地上に降りてきた神様と出会う。住人は断ったのだが、彼女は神様に一夜の宿を探す。神様はそのお礼に大金を与え、それを元手に小さなタバコ店を開いて繁盛させた。物語は寓話だから、シュイ・タはシェン・テが作りだした架空の従兄。パイロットのヤン・スンを応援、しかし住人たちがあれこれと横槍を入れるのだ。 主演は葵わかな(26)。ヤン・スンは木村達成、重要な狂言回しの水売りワンが渡部豪太。そして曲者の住人たちをあめくみちこ、栗田桃子、枝元萌ら。神様はラサール石井、小宮孝泰、松澤一之。どうであろう。舞台巧者が主人公を取り巻くのだ。善人とは、幸福とは何であろう、とこれが主題。念願の作品に挑む白井の演出を注目する由縁である。
24/10/14(月)