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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

十一人の賊軍

名脚本家・笠原和夫が書いたシナリオの第一稿を、当時の東映社長・岡田茂がボツにしたので、笠原が破り捨てたという幻の企画が、映画になった。この映画化にいたるまでの物語もドラマ性があるが、そんな背景は何も知らなくても、楽しめる傑作時代活劇。 「賊軍」は官軍に対する賊軍というよりも、「犯罪者集団」という意味で、死刑になるところを、特殊任務につくことで執行猶予となった10人の賊たちのドラマとして始まる。この任務に成功すれば無罪放免になると言われて、彼らは砦を死守すべく出発する。タイトルは「十一人」だが、罪人は10人。途中で誰か加わるのだろうかと思いながら見ていたら、ある瞬間に11人目が誕生し、ストーリーも大きく転換していった。タイトルが、すでにストーリーの一部となっているのだ。 オープンセットで作られた砦での攻防戦がアクションシーンの中心だが、背景にある、新政府軍(官軍)と幕府軍(賊軍)の間で右往左往する、新発田藩の外交戦略を描く政治劇も見応えがある。 その政治劇の中心にいる阿部サダヲ演じる家老は、小心者なのか大胆なのか、行き当たりばったりなのか、緻密な戦略があるのか、分からない。阿部は無表情に、この複雑な人物を演じきる。 メインは山田孝之と仲野太賀が「動」のパートなのだが、阿部を中心とした「静」のパートがあるからこそ、攻防戦での派手なアクションが際立つ。 黒澤明の『七人の侍』よりも4人多いが、ひとりひとりに見せ場もある。なかでも、イカサマ賭博で捕まった詐欺師は、『七人の侍』における三船敏郎的なポジションで、これを尾上右近が好演している。そういえば、尾上右近は歌舞伎役者だが、母方の祖父は鶴田浩二だ。東映の伝統の何かがつながっているのも感じられる。

24/10/24(木)

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