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Tak

美術ブロガー

古陶磁にあらわれる「人間模様」展

伊万里、鍋島などの肥前磁器および中国・朝鮮などの東洋陶磁を主体に約7000点を所蔵している戸栗美術館。都内では唯一の陶磁器専門の美術館です。渋谷の高級住宅街である松濤の地にひっそりと建っています。 鍋島、伊万里などを年に4回展覧会を開催している中で、今回はこれまでとはちょっと違った視点から陶磁器を見直してみる意欲的な企画展となっています。焼かれた地域や形状、装飾ではなく陶磁器に描かれた「人物」に着目し、モチーフやテーマごとにまとめて紹介しています。人が生活で用いる皿や壺に描かれた人物は、果たしてどのようなものが多いのでしょう。 おめでたい神仙画や、歴史上の一場面を描いた歴史画、それに人々の日常を描きとめた風俗画などが代表的なものとなります。第1章「願いを込めるー神仙画・唐子図―」、第2章「古典に親しむー歴史画・物語絵―」、第3章「風情を親しむー風俗画・美人画―」、第4章「己を映すー山水画―」と、1章から4章までとても上手いことカテゴライズされており、いつも以上に焼物の世界に浸れます。産地別ではなくテーマで分けてみると陶磁器も違って感じることができます。 中には皿や壺に描かれた人物画ではなく、《色絵 婦人像》伊万里(柿右衛門様式)のような、人物像そのままの陶磁器も含まれます。《色絵 巴御前人形》や《色絵 ういろう売り人形》(伊万里)などこの機会でないとお目にかかれない作品も出ています。また、膨大な戸栗美術館コレクションの中で、今回初めて展示される《染付 出島人物文 輪花皿》にも注目です。長崎版画などで注目の的であった異国の人々の姿を捉えた輸出用の伊万里焼。描かれているのは、オランダ人の姿でしょうか。髪の毛はチリチリで鼻が高くキセルをふかしています。 伊万里焼や景徳鎮窯磁器など東洋の古陶磁にあらわされた人物モチーフを解き明かしつつ、それを取り巻く人々の人間関係にも目を向けた展覧会。視点を変え陶磁器に描かれた「人間文様」に注目することで、これまでとは違う焼物の魅力にきっと出会えるはずです。

24/12/19(木)

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