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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介
岡田 秀則
国立映画アーカイブ主任研究員
「巨匠が撮った高峰秀子」写真展
24/11/9(土)~24/12/8(日)
東京都写真美術館
〈女優〉から〈妻〉へ―生誕100年 高峰秀子という生き方(10/5〜1/13)鎌倉市川喜多映画記念館 「巨匠が撮った高峰秀子 」写真展(11/9〜12/8)東京都写真美術館 2024年は、大女優高峰秀子の生誕100年という区切りの年である。国立映画アーカイブや全国の映画館で出演作の上映が行われているが、展覧会の開催も盛んであった。本稿で紹介する2企画は、今年の高峰秀子展の中でも白眉と言えるだろう。 鎌倉市川喜多映画記念館での展覧会は、その映画人生全体に光を当てるとともに、当時助監督だった松山善三との結婚以降の生活面にも注目し、なかなかお目にかかれない高峰のくつろいだ写真も多く見られる。この企画名だと、好きになれなかったという女優業からのフェイドアウトを称えているかのようだが、実際の展示はよくバランスが取れている。ここで聴き逃せないのは、1956年に高峰が出演したラジオドラマの音源だ。筆者の訪問時は谷崎潤一郎原作『猫と庄造と二人のをんな』だったが、映画化の際は山田五十鈴が演じた前妻の役を、高峰も、落ち着きの中に強さを秘めたあの声で堂々と演じている。映画以外の彼女の声が聴ける貴重な機会だろう。来年1月13日まで。 写真美術館の方は、名だたる巨匠写真家たちの被写体となった高峰に着目しているが、そもそも、一人の人間を被写体とする複数の写真家の作品展示自体がかなり稀有なのではないか。木村伊兵衛、土門拳などというビッグネームにはややたじろぐが、若き土門は女性誌の仕事もしており、ブランコを漕ぐきらきら輝くような高峰のポートレートはむしろ爽やかな発見だ。だが、やはりスター写真にはもちろんその道の名手がいる。佐分利信や木暮実千代の顔真似(!)などは、気心の知れた友早田雄二にしか決して撮らせたりしないだろう。七変化なのに一本筋の通った高峰の人間像が浮かび上がる好企画だ。12月8日まで。
24/11/21(木)