Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

小さくとも内容の豊かな展覧会を紹介

白坂 由里

アートライター

どうすればよかったか?

札幌在住の映画監督、藤野知明が20年にわたり家族を撮影したドキュメンタリー。1983年、優しく優秀だった姉に、ある日、統合失調症と疑われる症状が現れる。しかし、医師で研究者の両親は、彼女を精神科の受診から遠ざけ、玄関のドアに南京錠をかけてしまう。姉を受診させたい藤野監督は、両親と何度も対話を試みるが、現実認識が異なる父の承諾は得られず、母も父に従う。姉が入院できたときには25年も経過していた。 父や母は、娘とともに、家族を内へ、内へと閉じていく。けれど、姉はひとりで外へ出られるし、家族で出かけることもできる。姉も内に籠るなら無理に連れ出してはいけないのかもしれないが、藤野監督が姉に「何かしたいことある?」「どこか行きたいところある?」と切実に語りかけるのは、姉に欲望が残っていれば生きる動力となるからだろう。安易な解釈をしてはいけないが、姉が作った造形物にも、抑圧と外にはみ出すようなエネルギーを感じてしまう。「ともちゃん、見て」とポーズをとる姉の飄々とおどけた姿が、仲の良い姉弟の子ども時代を想像させる。 家族介護および家族問題という観点では、筆者自身も「どうすれば」の連続だ。外の力を借り、ケアする両親や監督自身へのケアも必要だったのではないだろうか。藤野監督が映画に残したことが家族を外に開いた。今後の誰かのケアにもなるかもしれない。

24/12/3(火)

アプリで読む