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小劇場から大劇場まで、年間300本以上観劇。素晴らしい舞台に出会うため、気になる作品は何でも観ます。
森元 隆樹
演劇ジャーナリスト/プロデューサー/読売演劇大賞選考委員
『ア・ラ・カルト公認レストラン 僕のフレンチ』
24/12/11(水)~24/12/15(日)
I'M A SHOW
筆者が従事する三鷹市芸術文化センターのオープンは1995年11月3日であり、その1年4カ月前の1994年7月に職員募集が始まり、試験やら面接やらを経て、同年9月1日に、演劇・落語・映画・古典芸能担当のプロパー(固有職員)として私は採用された。もちろんすでに、三鷹市芸術文化センターは完成に向けて着々と工事が進んでいたが、その新しい施設でどんな公演(自主事業)を実施するかは、すべてがそれからだった。自ら劇団を主宰し、作・演出を担当して、20代という時期を演劇に費やしてはいたものの、公立ホールでどんな演劇公演が行われているかなど考えたこともなかった30歳の私は、「急がば回れ」ではないか、まずはその「公立ホールの演劇事情」を調べ始めた。すると、 『彩の国さいたま芸術劇場』のオープンが、三鷹の前年の1994年10月。 『世田谷パブリックシアター』のオープンが、三鷹の約1年半後の1997年4月。 そう、当時の公立ホールにおいて、演劇公演に力を入れている会館は、ほとんど無かったのである。そして、その頃の主流は、老舗劇団の旅公演作品を1日だけ上演する、いわゆる『買い公演』であり、1ステージ〇〇〇万円(旅費・宿泊費・食費別)などの公演条件が書いてある一覧資料も存在していた。 もちろんその『買い公演』は今でもあるし、それが決して悪い訳ではない。良い公演が地方を巡り、演劇の裾野が広がるのは素敵なことだと思う。ただ、私が採用されたのが偶然三鷹であり、都心といえば都心だし、郊外といえば郊外なので、演劇に興味のある三鷹の人は、紀伊国屋ホールでも本多劇場でも行くだろうと。だから、三鷹で『買い公演』を手掛けても、演劇的興奮は小さいだろうと。 そう考えた私は、「三鷹でしか観ることができない公演を、できるだけロングランでやろう」「今現在の集客数や、老舗も若手も東京も地方も全く関係なく、自分が良いと思った劇団だけを招聘しよう」というふたつの思いを不文律として、オープニングフェスティバルのラインナップ作りに着手したのである。 そして。 そのラインナップの中に、当時青山円形劇場において、暮れの恒例企画として人気を博しており、演劇としても、演奏を絡めたエンターテインメントとしてもクオリティが極めて高かった『ア・ラ・カルト』を並べることができたのである。 公演のプロデューサーの方にお時間をいただき、「何とかこの企画で」とお願いした企画書のタイトルは『ア・ラ・カルト~バレンタインデー・ヴァージョン~』。 1989年から始まり、クリスマスの夜のレストランを舞台として、さまざまな人間模様を描き、白井晃、高泉淳子、陰山泰といった[ 『遊◎機械/全自動シアター』の中心メンバーのエンターティナーとしての実力に、音楽監督・中西俊博を中心とする卓越した演奏技術を持ったミュージシャンの生演奏が絡み、若い人からご年配の方まで多くの支持を集め、年々集客数を増やしていた『ア・ラ・カルト 役者と音楽家のいるレストラン』。 三鷹に従事する前から拝見し、その舞台の完成度の高さに圧倒され、胸を躍らせていた私は、なんとかオープニングフェスティバルにご出演いただきたくて、なおかつ、なんとか三鷹だけで観られる公演を実現したくて、プロデューサーに「クリスマスの次の恋人たちのイベント、バレンタインデーの夜の設定で、三鷹だけで公演していただけないでしょうか」とお願いし、交渉の末「作りましょう」とのお返事をいただけたのである。 三鷹市芸術文化センターで『ア・ラ・カルト』を上演させていただいたのはこの時だけだったが、その後も『ア・ラ・カルト』は青山円形劇場の年末の風物詩として輝き続け、2008年まで続いたところで白井晃、陰山泰が卒業。その後は『ア・ラ・カルト2』と名前を変えて、2015年の青山円形劇場の閉館まで続いた。 そして今。 2019年開店『ア・ラ・カルト公認レストラン 僕のフレンチ』が、今年もクリスマスの夜を迎える。 <<<>>> 構成・台本・演出:高泉淳子 音楽監修:中西俊博 1989年から始まりロングラン公演になったクリスマスシーズンの風物詩『ア・ラ・カルト』。2019年ワイン好きな常連客サラリーマン高橋がレストラン《ア・ラ・カルト》のオーナーを引き継いで『僕のフレンチ』を開店。素敵な音楽、粋なストーリー、豪華ゲストの芝居&パフォーマンス。笑いあり、涙あり、クリスマスの夜レストランに訪れる人たちの人間模様をジャズの生演奏と伴に味わう、大人のエンターティナーショー。 <<<>>> ホームページにそう踊る『ア・ラ・カルト』のステージが、今年も師走の演劇を彩っていく。 思えば私が三鷹市芸術文化センターに従事し始めた頃、「『ア・ラ・カルト』のように、[この時期が来たら、あの公演が開催される]とお客さんに思ってもらえるのは、ホールの認知度や、イメージアップにとって重要だなあ」と強く思い、それを参考に、『晩年の三鷹に生き、三鷹に眠る太宰治の朗読会』を『桜桃忌』の時期である毎年6月を中心に開催したり、毎年秋が来ると三鷹の若手劇団フェスティバル『MITAKA”Next”Selection』の時期だなあと思ってもらえるようにと、公演を続けてきた。 その思いをもたらせてくれた『ア・ラ・カルト』に強い敬意を持ちつつ、今年も 『ア・ラ・カルト』とともに、師走を感じたい。
24/12/4(水)