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植草 信和
フリー編集者(元キネマ旬報編集長)
ビーキーパー
25/1/3(金)
丸の内TOEI
ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)は、パソコン操作前提の行政システムのために生活苦に陥るアナログ老人の苦難をとおして、現代文明を批判した傑作だった。パソコンが不得手な者は、受けてしかるべき行政サービスを受けられずに困窮生活を余儀なくされる、という恐怖は他人ごととは思えなかった。現代はパソコン万能時代だが、果たしてそれが人類に幸福をもたらすのだろうか? 本作『ビーキーパー』は、「偽セキュリティ警告画面」(サポート詐欺)によって、パソコンに不慣れゆえに全財産を失い自殺に追い込まれる老婦人の悲劇が、物語の発端になっている。彼女と同じような体験をした者にとっては、その詐欺グループに戦いを挑んでいくジェイソン・ステイサムに肩入れせざるをえない、リベンジ・アクション映画。 アメリカの片田舎で養蜂家(ビーキーパー)として隠遁生活を送るアダム・クレイ(ステイサム)。ある日、恩人の老婦人がフィッシング詐欺に遭って全財産をだまし取られ、絶望のあまり自ら命を絶ってしまう。怒りに燃えるクレイは、その犯罪組織を壊滅させるべく立ちあがる、というお話。 「ビーキーパー」とは聞きなれない言葉だが、「世界最強の秘密組織」らしい。そこに所属していた過去を持つ彼は、独自の情報網を駆使して詐欺グループに迫る。クライマックスでは、FBIやCIAが入り乱れる壮大なアクションが展開。観る者の溜飲をさげてくれる。 天候変動、戦争、闇バイトなど悲惨な出来事が多発する現代。いっときでもそんな現実から逃れたい、たとえ絵空事であっても爽快感を感じたいと思っている人には、ストレス解消効果あり。 名優ジェレミー・アイアンズがステイサムの敵役として、いぶし銀のような演技を見せてくれる。監督は戦車映画『フューリー』(2014)で骨太なアクション感覚を披露したデヴィッド・エアー。お正月映画として最高のカタルシスを感じさせてくれる一本だ。
24/12/12(木)