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植草 信和
フリー編集者(元キネマ旬報編集長)
トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦
25/1/17(金)
新宿バルト9
1975年、初めて香港に行ったときの飛行体験は忘れることができない。羽田を立ち、香港啓徳(カイタック)国際空港に近づいて着陸態勢に入ったその機体の正面に、巨大な建造物が出現したのだ。あわや飛行機が眼前の建物に激突するのではないか、という恐怖感。恥ずかしながら、その啓徳空港がパイロットから「世界中で最も操縦が難しい」といわれる危険な空港、という知識はなかった。さらにそのバラック建造物が、「九龍城砦」だとも知らなかった。 本作『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は、その「魔窟」を舞台にした超大作香港アクション作品。話題の中心は、今は無い伝説の「九龍城砦」が5000万香港ドル(約9億円)という巨費を投じて、精密に再現されたセットだ。張り巡らされたむき出しの配電線、薄暗い電球、水漏れする水道管、幾重にも曲がりくねった通路……「東洋のカスバ」といわれた廃墟のような巨大建造物のなかで、黒社会と住民組織の城砦覇権をめぐる死闘が展開する。そのセットのリアリティが、アクションの凄まじさを倍増させる。 主役のひとりが、かつてジャッキー・チェンとともに香港映画界の人気を二分したレジェンド、サモ・ハン。72歳になった今も、素晴らしくキレのあるクンフーを披露してくれているのが嬉しい。その他、『SPL 狼たちの処刑台』のルイス・クー、アーロン・クォック、リッチー・レンら豪華キャストが集結。監督は『ドラゴン×マッハ!』のソイ・チェン。『るろうに剣心』シリーズの谷垣健治がアクション監督を務め、『イップ・マン』シリーズの川井憲次が音楽を手がけているのも、香港映画ファンとしは見逃せないところだ。 第97回米アカデミー賞国際長編映画賞部門の香港代表に選出、第77回カンヌ国際映画祭でも上映された。当然、香港でも話題になり、ついには「香港映画として歴代No.1の動員を達成」、と媒体資料は伝えている。ブルース・リーから始まり、ジャッキー・チェン、サモ・ハンと受け継がれた「香港アクション映画の血」が、本作には脈々と受け継がれている。
24/12/31(火)