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恩田 泰子
映画記者(読売新聞)
展覧会「映画監督 アンジェイ・ワイダ」
24/12/10(火)~25/3/23(日)
国立映画アーカイブ 展示室(7階)、 国立映画アーカイブ
『地下水道』『灰とダイヤモンド』『大理石の男』『鉄の男』など、ポーランドの時代状況を鮮烈に映し出す作品を発表しながら、映画表現の可能性をひらいてきた巨匠、アンジェイ・ワイダ(1926~2016年)の作品世界をひもとく展覧会。2019年にポーランドで開催された大規模回顧展の初の海外巡回だといい、監督が生涯にわたって育んだ日本との深いつながりに着目する東京展独自の視点も設けられている。 60年以上にわたる作品歴をめぐる約190点の展示品は、ひとつひとつが興味深い。作品のイメージや構想を描いたドローイングやスケッチは、映画の道に進む以前に美術学校に学んだワイダが「画家の手」の持ち主であり、豊かな視覚的思考の人であったことを雄弁に語る。劇中衣装もあって、『灰とダイヤモンド』でズビグニェフ・ツィブルスキが着用したジャケットがまず目をひくが、『ヴィルコの娘たち』でワイダ夫人でもあるクリスティナ・ザフヴァトヴィッチが着たビーズ刺繍がみごとなドレスも溜息もの。坂東玉三郎主演で舞台と映画にした『ナスターシャ』をめぐるスケッチや手紙なども見逃せない。 ビデオプロジェクションやデジタル展示も随所に。ポーランド展に比べれば会場はコンパクトだというが、空間の密度は高く、展示資料と映像、作品に関連したさまざまな言葉の引用が、映像や音と立体的に響き合いながら目に飛び込んでくる。キュレーションは、クラクフ展も手がけた映画史家のラファウ・シスカ氏が中心となって、国立映画アーカイブ主任研究員の岡田秀則氏らとともに行った。ポーランドと日本の連携で実現した濃密な展示、時間をかけて味わいたい。
25/1/8(水)