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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
劇場アニメ ベルサイユのばら
25/1/31(金)
TOHOシネマズ日比谷
少女マンガは、その名のとおり少女が読むものだが、男女を問わず、そのタイトルを知っている少女マンガが『ベルサイユのばら』だ。それが2時間弱のアニメ映画になった。タイトルしか知らない人も、この機会に見て、「ベルばら」を知ってほしい。 背景を含めて、とにかく色彩が美しい。音楽もディズニー・アニメみたいにスケールが大きい。この、「色」と「音楽」という、原作のコミックにはない要素を駆使して「ベルばら」が蘇る。 原作は、さまざまな階層の人物を通してフランス革命を描いており、かなり複雑なストーリー。このすべてをダイジェストにするのではなく、「オスカルの物語」にしぼって脚色し、一本の映画として、原作を知らない人でも楽しめるようになっている。一方で、原作のファンでなければ分からないシーンも織り込まれているので、ファンも満足できるだろう。 この映画のために15曲の挿入歌が作られ、その使い方が、うまい。オスカルやマリー・アントワネットが心情を歌うが、宝塚歌劇やディズニー・アニメみたいに登場人物が「歌う」のではなく、背景音楽として流れるのだ。つまり歌舞伎や文楽の三味線と浄瑠璃語りみたいな感じ。ミュージカル的だが、ミュージカルではなく、それでいて歌がたっぷりという贅沢な映画。音楽がメインのシーンでは、背景などが実験的な手法になり、アニメならではの映像テクニックも堪能できる。 半世紀前の少女マンガの絵を現代風のリアルなものに変えていないのが、いい。むしろ原作以上に、人物の瞳のなかには星が輝き、花が咲いていないのに画面には花びらが舞う。そのあまりにも少女マンガ的な絵柄は、最初はちょっと時代錯誤ではないかと思ってしまうほどだが、「ベルばら」はストーリーの面白さもさることながら、オスカルやマリー・アントワネットの美しさこそが魅力でもあるのだから、この絵でなければいけないと納得。背景が過剰なまでに美しいのは、オスカルたちの美しさに拮抗させるためなのだ。 後半、革命へ向かうシーンになると、美しい色彩で描かれるパリの街を背景にした、銃と砲弾の闘いになり、容赦なく、血が飛び散る。このミスマッチが革命の現実であり悲劇である。オスカルは最後まで、清く・正しく・美しく、そして強い。 見た後で、原作を改めて読んだが、半世紀が過ぎても色褪せていないのが驚異だ。そして、この傑作を、池田理代子が20代半ばで描いたのは、もっと驚異だ。
25/1/23(木)