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文学、ジャズ…知的映画セレクション
高崎 俊夫
フリー編集者、映画評論家
脚本家で観るロマンポルノ
25/2/15(土)~25/3/7(金)
シネマヴェーラ渋谷
シネマヴェーラ渋谷ではこれまで何度か日活ロマンポルノ特集が組まれてきた。主に神代辰巳、田中登、曽根中生、小沼勝といった映画監督が中心で、つまりは〈作家主義〉の視点でプログラミングされるケースが多かったが、今回の特集ではシナリオライターに着目している点が大いに注目される。 たとえば、いどあきおは田中登とのコンビで知られるが、今回の上映作品(『学生情婦 処女の味』『密猟妻 奥のうずき』『黒い下着の女』『団鬼六 花嫁人形』)を見れば、その多彩で奥深い才能に瞠目させられることだろう。そして石堂淑朗(『性教育ママ』)、中島丈博(『覗かれた情事』『淫獣の宿』)、佐治乾(『犯される』『欲情の季節 蜜をぬる18才』)といった手練れの職人、ベテランが腕を競っているのも見逃せない。 さらには、鹿水晶子(『中山あい子「未亡人学校」より 濡れて泣く』)、那須真知子(『横須賀男狩り 少女・悦楽』、『襲られる』)、白鳥あかね(『わたしのSEX白書 絶頂度』)といった女性シナリオライターの秀作が居並ぶのもロマンポルノの意想外な裾野の広がりを示している。 だが、今回の特集の目玉というべきは、やはり田中陽造作品であろう。『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座」などの鈴木清順作品、あるいは『魚影の群れ』『雪の断章』などの相米慎二作品で知られる田中陽造は、ロマンポルノ初期から数多くの秀作シナリオを手がけており、ロマンポルノをあまねく認知させた最大の功労者のひとりといっても差しつかえない。 不倫する人妻たちの倦怠に満ちたロンドともいうべき『「妻たちの午後は」より 官能の檻』、田中小実昌の「ポロポロ」を原作に、ヤクザの女房に惚れた三上寛演じるやさぐれ男が東北の鄙びた田舎町を漂泊するロードムービー『おんなの細道 濡れた海峡』は必見と言ってよい。 なかでも特別上映される『女教師 汚れた放課後』は、話題の新作『ゆきてかへらぬ』でもコンビを組んでいる、根岸吉太郎の隠れた傑作である。かつて強姦の濡れ衣を着せた男が教え子の父であることを知った女教師が贖罪感にとらわれ、埋めがたい空虚を抱えたまま東北の寂れた海辺の町へとたどりつく。夜明けの寂れた海浜で、風祭ゆきと三谷昇が繰り広げる再生への祈りのような哀切なセックスシーンは、忘れがたい印象を残す。 本特集にタイミングを合わせたように、『ゆきてかへらぬ 田中陽造自選シナリオ集』(国書刊行会)も刊行される。劇場で販売されるが、3月2日、『女教師 汚れた放課後』上映後には、田中陽造のトーク・イベントも予定されている。乞う、ご期待といっておこう。
25/2/15(土)