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日本映画の新たな才能にフォーカス

イソガイマサト

フリーライター

名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN

ボブ・ディランがまだ何者でもなかった若き日の5年間を描いた本作は、ボブ・ディランを知らない人の心をも震わせる珠玉の音楽映画だ。 主演のティモシー・シャラメ(『デューン 砂の惑星』)のギターの指使いがどれだけ実際のディランのそれに近いのかを知らなくても、映像を見ただけで、コロナ禍の間にディランを徹底的にリサーチし、彼のすべてを自分に刷り込ませたシャラメの繊細なプレイが完璧なものだと信じられる。ドラマと音楽を巧みに交錯させたジェームズ・マンゴールド監督(『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』)の語り口も分かりやすく、ストレスをまるで感じない。 そんな最良の環境のなかで、スターダムを駆け上がっていくディランの揺れ動く心や彼とふたりの女性との関係性の変化が、カーネギーホールや野外音楽祭の会場、カフェや病室でのライブ演奏によるシャラメの生歌で伝えられるのだから、こんな極上の映画体験はないだろう。 なかでも、音楽ビジネスと自分の表現との狭間でもがき苦しむディランが、ファンや関係者が望まない自分の歌をゲリラ的に熱唱するシーンは圧巻! ディランの心の叫びが、同じ創造者としてそれが分かるシャラメの肉体と歌声で迫ってきて、自分がまるでライブ会場にいるような気分に。最高の音響システムを備えた映画館の、なるべくデカいスクリーンで観ることをオススメしたい。

25/3/5(水)

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