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演劇鑑賞年300本の目利き

大島 幸久

演劇ジャーナリスト

『やなぎにツバメは』

歌って、笑って、恋して、泣いて……。横山拓也・作、寺十吾・演出『やなぎにツバメは』には、友情、老後、将来といったいくつかの主題が内包されている会話劇だ。 4人の熟年男女、2人の若者。世代の異なる男女6人の登場人物は、どこにも居る人、そして風景だが、それぞれが違った悩みや考え方を持って日常を生きている。彼らが絡んでくると物語が紡ぎ出される。 個性的な実力派をよくぞ集めたものだ。主人公の美栄子を演じるのは大竹しのぶ(67)。母が経営していた「カラオケスナックつばめ」を継ぎ、娘の花恋(松岡茉優)がいる。店の常連が段田安則(68)演じる洋輝と木野花(77)演じる佑美。洋輝は妻を亡くしており、林遣都演じる息子の修斗がいる。この3人は約20年前に知り合った仲間だ。 美栄子が夫・賢吾(浅野和之)と離婚話になったときや、洋輝が妻を亡くした時、佑美が仕事で悩んでいた時期など、この店に集まってで励まし合っていた。主に3人の絆が描かれる物語は、美栄子の母・ツバメの葬儀の夜に始まる。そこに修斗、花恋も集まって……。 作者の横山の書く会話劇は何気ない日常会話、事情を抱えて老後を考える大人たち、結婚について思案する若者の心情を深掘りするだろう。 タイトルは、サトウハチローが作詞し、服部良一が作曲した昭和の名曲「胸の振子」の冒頭の歌詞。実力派の台詞術、会話術の妙が見どころである。

25/3/10(月)

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