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夏目 深雪
著述・編集業
エミリア・ペレス
25/3/28(金)
新宿ピカデリー
ジャック・オーディアールの新作。台湾系仏人の女性とアフリカ系仏人の男性との恋愛を、赤裸々な性描写とともに描いた『パリ13区』も斬新な傑作だったが、トランスジェンダー女性を描いたこの映画も、非常に攻めた作品で彼の最高傑作ではないかと思わせる。 トランス女性を描く映画は、まだまだ差別が蔓延る現状を反映して、どうしてもその属性や差別の現状などを描くことで精一杯になってしまう。この映画は、主人公のトランス女性が麻薬王からの転身だという設定、また形式としてミュージカルを採用したことで、性転換にまつわる肯定的なイメージや、彼らの文化の豊かな特徴を映画的に捉えることに成功している。ストーリー的にも、彼らの文化が伝わってくるという意味でも、単純に観ていてワクワクする映画なのだ。 トランス女性を演じたカルラ・ソフィア・ガスコンが圧巻。実際、カンヌ国際映画祭で審査員賞と、主人公の女弁護士を演じたゾーイ・サルダナほか、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメスら4人が女優賞を受賞した。アカデミー賞でも最多12部門13ノミネートで本命視されていたのだが、ゾーイ・サルダナの助演女優賞と歌曲賞の2部門での受賞に終わった。これは、カルラ・ソフィア・ガスコンの過去のSNS上での、人種や宗教に対する差別発言が明るみに出た影響だということ。残念である。
25/3/18(火)