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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

教皇選挙

信者ではない人間にとって、ローマ教皇がどなたであろうと、ほとんど関心がないのではないか。しかし、どんな方法で教皇が選ばれるのかは知りたいはずだ。何しろ、バチカン市国の元首にして全世界14億人以上の信徒を有する、「世界最大組織」カトリック教会の総本山・バチカンの頂点に立つ人を選ぶのだから。 本作『教皇選挙』は、まずローマ教皇を決める教皇選挙が「コンクラーベ」と呼ばれ、外部の介入を徹底的に遮断する密室選挙であることを教えてくれる。そして、この完全なる秘密主義のベールに覆われた選挙戦の内幕を、暴いていく。 
世界各国の高位聖職者の枢機卿108人が、候補者として集められる。そして、バチカンのシスティーナ礼拝堂の密室で彼らによる投票が始まる。新教皇になる必須条件は、3分の2以上の票を得ること。2回、3回の投票で、人数が絞られていく。その水面下では、絞られた5人の枢機卿たちの陰謀、差別、スキャンダルが露わにされていく。 聖職者といえども人間である以上、名誉欲、権力欲はある。投票を重ねるたびに、彼らの欲望が露呈される。目まぐるしく情勢が変わり、選挙戦は白熱していく。政治選挙もどきの野望の噴出が、観客の好奇心を刺激し、先読みできないストーリーが展開していく。そしてその先の、衝撃的なクライマックス。映画を観た人間にだけに許される、“映画的エクスタシー”が待っている。 クライマックスで唖然・茫然とさせられる、いわゆる“どんでん返し映画”は過去にも数多くあった。『情婦』の昔にさかのぼらずとも、『スティング』『シックス・センス』『ユージュアル・サスペクツ』などなど。しかし、本作のラスト・シーンの衝撃は、それらの作品とは違う。戦争や気候変動の“現代の混沌”が映し出されているからだ。 アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたレイフ・ファインズを始めとする、枢機卿に扮したジョン・リスゴー、スタンリー・トゥッチ、カルロス・ディエスの演技が素晴らしい。密室のセットの造形も、観る者を不安にさせる音楽も超一級。 監督は第95回アカデミー賞で国際長編映画賞ほか4部門を受賞した傑作『西部戦線異状なし』のエドワード・ベルガー。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesでの批評家支持率は91%、平均点は10点満点で8.0点となっている。政治的分断が深刻化している現代だからこそ、観るべき映画の一本だ。

25/3/17(月)

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