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春日 太一
映画史・時代劇研究家
ミッキー17
25/3/28(金)
TOHOシネマズ日比谷
『パラサイト 半地下の家族』で世界を席巻したポン・ジュノ監督の最新作は、大がかりなハリウッド映画だった。 宇宙空間、クローン、異星人とのコミュニケーション形成といった、複雑なSF設定に基づく作品だ。しかも、それらが空回りすることなく、全て見事に活かされている。そのため、SFが好きな方にはバッチリと刺さるのではないかと思われる。 だが、だからといってSFが苦手な方や馴染みのない方には理解しにくい内容かというと、決してそうではない。エンタテインメント作品としても気軽に楽しむことができる内容になっている──というより、むしろそういう作品だ。 複雑な設定も序盤のコミカルな展開の中に手際よく解説されているため、楽しんでいるうちにいつの間にか全て自然に頭に入ってくるのだ。しかも、基本的には現代社会を風刺した物語であるため、主人公のミッキーをはじめとする登場人物たちはいずれも現代の観客にとって親近感や憎しみを抱きやすく、我々から決して遠い存在ではない。社会の底辺に生きる人間の怒りのドラマとして、生々しく接することができるし、主人公の奮闘を応援したくもなる。 全編を通してポン・ジュノらしいサスペンスやブラックユーモアもちりばめられており、この監督はハリウッドにあっても自身のスタンスを貫いたのだと、受け止めることができた。
25/3/23(日)