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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

歌舞伎座松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」

四月大歌舞伎 新歌舞伎十八番の内『春興鏡獅子』 勇壮に毛を振る獅子の姿で知られる『春興鏡獅子』。歌舞伎と言えばこの獅子のイメージを思い浮かべる人も多いだろう。初演は明治26年、九世市川團十郎で、演劇改良運動で知られる福地桜痴の作詞。 舞台は千代田城の大奥の広間。正月の鏡開きの余興にと踊りを所望された小姓弥生が、局と奥女中に手をひかれてむりやり連れ出されてきてしとやかに踊り始める。この前ジテの弥生は、“周りから所望されてしかたなく踊り始める”という設定。それどころか嫌すぎて途中で一度引っ込んでしまうほど。「毎回この弥生については、なんで私がと思いながら、本当は嫌でしょうがなく踊っている」という芸談もある。祭壇に祀られていた獅子頭を手にした弥生は、次第にその獅子に操られるように激しく踊り始め、獅子に引っ張られるかのように花道を引っ込んでいく。後ジテとして獅子の精が現れて勇壮な踊りを繰り広げ、巴、たすき、髪洗い、菖蒲叩きとさまざまな美しい毛振りを見せる。 長らく埋もれていたこの踊りを復活させたのが六代目尾上菊五郎で、その生涯の当たり役ともなった。旧国立劇場ロビーに展示されていた平櫛田中の巨大な鏡獅子像は六代目をモデルとしたもので、ご存じの方も多いだろう。今回この『鏡獅子』を踊るのは尾上右近。右近はその六代目の曽孫で、物心ついて初めて見た映像の中の六代目の『鏡獅子』にずっと憧れ続けていたという。自主公演『研の會』ではすでに披露済だが、歌舞伎座では初めて。 右近がこだわったという宣伝写真からは、ダイレクトにこの踊りの魅力と彼のこの踊りへの思い入れが伝わってくる。黒バックに、毬のように大きく高く跳んでいるアングル。そのとなりに大きく『春興鏡獅子』の五文字。シンプルで力強いデザインだ。 「いつもは写真家の方はじめいろいろな方と意見をぶつけ合ってポスターのデザインを決めますが、今回ばかりは自分の考えを通させていただきました。六代目の舞台写真に、高く跳んでまるでシッポで立っているのかと思えるような舞台写真があり、それを意識して僕も何度も跳んで撮影しました。弥生の方は今回衣裳を新調するためこのポスターには間に合わなかったけれど、これも非常にこだわって作っていただいたもの。また弥生が手にする獅子頭も、今回特別に仏師の方に作っていただきました。楽しみになさっていてください」と語る。 踊りを得意とする役者ならいつか『鏡獅子』を踊りたい、お客様の前で披露したいと思うだろう。この踊りに抱くそれぞれの思い入れや憧れもダイレクトに客席に伝わってくる。特に後ジテで、勇ましく化粧をほどこした獅子の顔つきとその役者の本来の顔つきが一体となっていくその瞬間を目撃したときの痺れる感覚、高揚感。何度も通って、ぜひともその瞬間に立ち会いたい。

25/3/23(日)

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