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ダグラス・サーク傑作選

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  近々、ベルナール・エイゼンシッツの評伝が刊行されることもあり、ふたたびダグラス・サークが注目を浴びている。昨年末のシネマヴェーラ渋谷に続いて、今回の特集では、サークがもっとも脂が乗り切っていた1950年代のユニヴァーサルの5作品が揃っている。まさに、思わず、溜め息がつきたくなるような豪華絢爛たるプログラムである。 ダグラス・サークは、1970年代、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手であったライナー・W・ファスビンダーやダニエル・シュミットによって〈メロドラマの巨匠〉として再発見されたのは周知のとおりである。 いっぽうで、ヌーヴェル・ヴァーグの時代において、すでに映画批評家時代のゴダールがサークをめぐって次のような卓見を述べていることも見逃せない。 「ダグラス・サークにあってわたしを魅了するものは、まさしくその点、つまり中世とモダニズム、感傷性と繊細さ、とりたてて特徴もない画面構成と向こうみずなまでのシネマスコープ画面処理といった何ともいえぬ混在ぶりなのだ。」 『天が許し給うすべて』は、トッド・ヘインズの『エデンより彼方に』(2002)の原典として知られている。郊外の邸宅に住む未亡人ケリー(ジェーン・ワイマン)が若い庭師ロン(ロック・ハドソン)と恋仲になるが、周囲の知人や子どもたちから非難と中傷、いわれなき偏見にさらされ、孤立してゆく。50年代のサバービアのコミュニティに潜在する旧弊な差別意識やグロテスクな精神風土を仮借ないまでに暴いてゆくダグラス・サークの熟練した手腕には唸ってしまう。ロンの愛読書であるソローの『森の生活』が巧みに引用されているのも興味を引く。肥大した物質文明への異議申し立てを行なったカウンター・カルチャーの時代に、ダグラス・サークが再評価されたことが、この名作を見ると納得されるのである。 『風と共に散る』は、テキサスの石油王の御曹司カイル(ロバート・スタック)と幼馴染のミッチ(ロック・ハドソン)、カイルの妹マリリー(ドロシー・マローン)、カイルの新妻ルーシー(ローレン・バコール)のドロドロの四角関係の行方を追う。劣等感の塊のようなカイルをめぐる病理的なメロドラマともいえるが、「テンプテーション」のレコードで官能的なダンスを踊るドロシー・マローンの色情狂のようなキャラクターが鮮烈だ。 ほぼ同じキャスティングの『翼に賭ける命』は、飛行ショーで生計を立てている第一次世界大戦の英雄ロジャー(ロバート・スタック)と妻ラヴァーン(ドロシー・マローン)、そして彼らを取材する新聞記者バーク(ロック・ハドソン)の微妙な三角関係を描く。ウィリアム・フォークナーの『標識塔』が原作だが、とりわけ虚無的で厭世感を漂わせるロバート・スタックと彼を献身的に支えるドロシー・マローンの哀切きわまりない演技に打たれる。 『間奏曲』は、ミュンヘンとザルツブルグを舞台に、アメリカ女性ジューン・アリスンが医師と指揮者のふたりの男の間で揺れ動くヒロインを演じている。サークの故国であるドイツの風光明媚な都会を紹介する観光映画の趣もある。 『悲しみは空の彼方に』は、かつてフィルム・ノワールで蠱惑的なファム・ファタールを演じてきたラナ・ターナーの代表作にして超絶的なメロドラマの傑作。女優志願の未亡人ローラ(ラナ・ターナー)は住む家のない黒人女性アニーを女中として雇い、それぞれ一人娘を育てるがーー。映画はローラの女優としての成功譚と、アニーの娘サラジェーンが背負うことになる悲愴な失墜譚という二つのドラマが並行し、対比的に描かれる。父親が白人だったために肌が白いサラジェーンは周囲には白人のふりをし、黒人である母を恥じて、心ない罵倒の言葉すら口にする。公民権運動が高まりを見せ始めた時代に、人種差別のモチーフをこのような抜き差しならない悲劇的階調をもって描いたことは画期的ではなかっただろうか。とくにマヘリア・ジャクソンの絶唱とともに始まる葬儀のシーンは、映画史に残る荘厳さに打ちのめされること必至である。