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文学、ジャズ…知的映画セレクション
高崎 俊夫
フリー編集者、映画評論家
プレコード・ハリウッドII
25/4/12(土)~25/5/2(金)
シネマヴェーラ渋谷
昨年、ムチャクチャな面白さで、大好評を博したシネマヴェーラ渋谷の「プレコード・ハリウッド」特集の第二弾が早くも企画された。今回もウィリアム・A・ウェルマンの作品を中心に六本ほどをピックアップしておこう。 『夜の看護婦』は、バーバラ・スタンウィックの新米看護婦がある大邸宅に仕事で出かけるが、そこのアル中の女主人、子どもたちを亡き者にしようとする悪徳医師たちの陰謀に気づき、孤軍奮闘する。ウェルマンの小気味よいスピーディーな演出、スタンウィックの颯爽たるキャラクターの魅力で一気に見せる。プレコード期らしい大胆不敵な省略をきかせたラストにも唖然となる。大邸宅のお抱え運転手で、スタンウィックを殴る悪役を新人時代のクラーク・ゲイブルが演じている。 『花形証人』は、ギャングのボスの殺人を目撃した会計士一家が法廷証言しようとするが、ギャングは父親を拉致し、子供を誘拐して、一家に証言を取り消すように脅しをかける。ウェルマンの演出は、銃撃シーンの異様な迫真力と、一家の日常のユーモラスな点描が好対照なタッチで、一層の冴えをみせる。だらしないアル中の爺さんが一気にさらってしまうラストもお見事。 『罪の島』は、娼婦のギルダがかつてレイプされた相手を誤って殺してしまう。恋人の手引でカリブ界の島に遁走するも、そこは罪人たちの巣窟だった。アモラルな警察署長を筆頭に欲望をぎらつかせる男たちの間で毅然と振る舞うヒロイン、ドロシー・マッケイルが魅力的だ。 『ブロンド・クレイジー』は、べル・ボーイのジェイムズ・キャグニーがリネン係のジョーン・ブロンデルとコンビで詐欺行脚に興じる、まるで『スティング』の原典みたいなコン・ゲーム・ムーヴィー。詐欺の見本市のごとく様々な騙しの手口が披露されるのは楽しいが、「これで、ホントによいのか!」と半畳を入れたくなる唐突なラストに呆然となる。 『獨裁大統領』は、スクリュー・ボール・コメディの名手として知られたグレコリー・ラ・カーヴァの問題作。独善的な大統領ウォルター・ヒューストンが交通事故で瀕死の重症を負う。ところが、突然、死の間際に天使が憑依して蘇生するや、人格が一転、大恐慌下の失業者対策に大鉈をふるい、禁酒法で暴利をむさぼる暴力団を一掃など、善行を施す偉人伝のような展開となる。しかし、『米国第一主義」を謳い上げるヒューストンの自信たっぷりの表情に、時節柄、我が世の春のトランプを重ねてしまうのは避けがたい。実にコワい先駆的な映画なのである。 『麦秋』は、恐慌下、職を失った夫婦が荒れ果てた農地の開墾に希望を見出そうとする。当時、そのあまりに社会主義的なテーマが物議を醸したが、名匠キング・ヴィダーは、悠然たる語り口によって、過酷な時代そのものの光と影を浮き彫りにしている。とりわけ、そのきめ細やかな個々の人物造型は特筆に値する。 南部圭之助は『欧米映画史・上巻』(東京ブック)で次のように書いている。 「『麦秋』(むぎのあき)というのはあたらしい村を建設しようとした開拓団の努力にも拘らず、ひでりが続いて、最後に遠くから水路を導いて水を流す、そのクライマックスにおける素晴らしいヴィードア(ヴィダー)のモンタージュに感動して、筆者がつけた題だが、ヴィードア(ヴィダー)のファンであった小津安二郎は後年この『麦秋』という題を自作につけている。但しテレ屋の彼のことだからこれを”ばくしゅう”と読ませた」。
25/4/1(火)