東京・六本木4丁目に建つ俳優座劇場がついに閉館を迎える。演劇ファン、演劇人にとって“新劇の殿堂”であり、六本木のランドマークだ。その「さようなら俳優座劇場 最終公演」がウィリアム・シェイクスピア作『嵐 THE TEMPEST』。企画・制作の同劇場は創作劇でもなくブレヒト劇でもなく、一度もこの劇場で上演されてこなかったシェイクスピアの最後の作品を選んだ。
多くの団体が上演し、名演出家たちが大きなスケールで取り組んできた名作である。物語はよく知られるが、ミラノ侯爵プロスペロー(外山誠二)が弟アントーニオ(浅野雅博)の陰謀によってひとり娘ミランダ(あんどうさくら)と共に絶海の孤島に流される。そこには妖怪、精霊が住んでいた。12年後、公爵は弟とナポリ王アロンゾ―(藤田宗久)へ復讐するため秘術で大嵐を起こす。復讐劇なのだが……。
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同劇場を本拠地とする劇団俳優座から9人、演劇集団 円、青年座から各3人、文学座、昴は各2人、文化座1人、そしてフリーほか3人。男優12人、女優11人の布陣。ほぼ新劇界の中心グループを網羅した。
俳優座の設立が昭和19(1944)年2月、10年後の29年に劇場が開場した。この間、当時の劇団俳優が外部の映像出演、アルバイトに汗を流して貯めた資金で自前の劇場を作ったのである。現在でも自前の劇場を持っている劇団は極めて少ない。
感傷的に書けば、劇場のある街風景が好きだ。旧劇場が好きだった。小じんまりとして、古風で、名優が踏んだ舞台の味わいが感じられたものだ。新劇人の心意気、そして、いつの日にか新しい自前の劇場を作るという熱情を願う。さあ、嵐の船出だ!