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春日 太一
映画史・時代劇研究家
プロフェッショナル
25/4/11(金)
TOHOシネマズ 日比谷
近年のリーアム・ニーソン主演作は当たり外れが大きい上に当たりが少ないが、本作は大当たりだ。 高校時代、『鷲は舞い降りた 』などジャック・ヒギンズの小説にハマったのをキッカケに、IRAを題材にした映画を追いかけるようになった。ヒギンズのIRAもの小説で特に好きだったのが『死にゆく者への祈り』。誤って子どもを爆殺してしまった罪の呵責で組織を抜けた主人公の話で、ミッキー・ローク主演での映画化作品も素晴らしかった。 本作は、それを思い出すところがあった。どちらもIRAが誤って子どもを爆殺してしまうシーンから始まっている、というのもある。そしてなにより、『死にゆく…』で主人公の粛清を命じられながらも実行できずに悩む元同僚を演じたのが、若き日のリーアム・ニーソンなのだ。 しかも、爆殺犯を抹殺するという、彼の演じる役の目的も同じだ。 大きく違うのは、殺しに躊躇がないこと。本作でリーアムの演じる主人公は凄腕の殺し屋で、田舎町での平和な暮らしを望んで稼業をやめようとしていた。が、町にIRAが潜伏、愛する人々が暴力に巻き込まれたことで、IRAとの闘いが始まる。 くたびれて哀愁が刻まれたリーアムの横顔、クラシカルなファッション、素朴で無骨な暮らし、そして粛々と進められる非情な殺し。そうした完璧に作り込まれたハードボイルドな主人公像が、北アイルランドの雄大ながらも荒々しい景色や鉛色の空と見事にマッチし、渇き切った空気感が全編を貫く。 この優しくてタフで悲しい世界は、どこを切り取ってもジャック・ヒギンズの世界そのものに見えて、映し出される全てのショットが愛しく思えた。
25/4/11(金)