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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界
25/5/9(金)
TOHOシネマズシャンテ
史上初の女性報道写真家、リー・ミラーの伝記映画。年老いたミラーが、若いジャーナリストに過去を語るという形式で、その半生が描かれる。 リー・ミラーは『VOGUE』のトップモデルという「撮られる女性」で、名写真家マン・レイの愛人でもあった。やがて「撮る人」となり、最初はパリを拠点にファッション写真を撮っていたが、ナチス・ドイツとの戦争が始まると、報道写真家に転じる。だが、女性ゆえになかなか戦場への取材に行けない。いくつもの壁や障害を乗り越えて、戦場へ行き、ナチスが何をしていたかを知る。 後半は、ナチス・ドイツを題材にした戦争映画に転じる。この春はナチスの最重要人物を描いた『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』も公開されており、2作は裏表の関係にあるので、ぜひ2作とも見てほしい。 リー・ミラーを演じるのはケイト・ウィンスレット。前半の性的にも奔放で、恋に落ちやすい女性が、後半は疲弊しつつも真実を追う情熱を持つジャーナリストへと変わっていく過程を、説得力ある演技で的確に演じている。その映画のなかでミラーが撮った写真は、実際のミラーが撮った写真と同じ構図のもので、再現度が高い。だからこそ、そんな光景を実際に見てしまったミラーもまた、精神を病んでしまったことが伝わる。 彼女も、広義のナチスによる犠牲者のひとりである。 ラストで、映画のそれまでの語りの構造が一転するのも見事。
25/4/16(水)