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小さくとも内容の豊かな展覧会を紹介
白坂 由里
アートライター
同伴分動態
25/4/2(水)~25/5/6(火)
BUG
今は亡き坂本九は「この世で一番肝心なのは素敵なタイミング」と歌ったが、展覧会にもそんなよき時間が訪れることがある。複数の作品があり、パフォーマンスをしている人々もいれば、話している人やノートを読んでいる人もいる。ものや植物も関わりを持っている。その空間に居合わせたものたちが、共にありながら、それそれが分かれて自由に動く状態(様子、ありさま)。展覧会タイトルの「同伴分動態」とは、そのような意味の造語だという。 BUGのキュレーター、野瀬綾と共にキュレーションを行い、出展作家でもあるうらあやかは、対話とダンスを用いたパフォーマンスを上演。国の枠組みが染みついた思考からゆっくりと抜け出る方法を探る。また、毎週水曜日には「アマチュアでごく個人的な」表現と言論についてのワークショップも。もとより、展覧会に向けた各作家のリサーチにも同伴し、信頼しあえる場をつくってきたようだ。 二木詩織は、自身が働く生活介護事業所の様子やそこに通う人々との関わりを映像や写真で展示。事業所の利用者が絵や刺繍、手織りなどを制作する様子を記録した映像が、自然と展覧会会場にある。 また、宮田明日鹿は、編み物や家庭菜園などを手法として、生活と表現を循環させる中で、誰も排除されない営みの実践に取り組んでいる。今回は堆肥を協働してつくり、スナップエンドウを栽培。その鉢からは「生命、自由及び幸福追求に対する権利」といった言葉が編み込まれた農業用ネットが天井まで延びている。 小山友也は、人間や社会、風景などとのコミュニケーションを、自身の身体を通したパフォーマンスや映像などで可視化する。例えば、監視員とアーティストの組み手によるパフォーマンス映像では、”制圧”と”受け身”のような力の移動も見える。また、同展に関わったすべての人の名前が流れるエンドロール映像にグッときた。 いずれもコミュニティの運営や他者の表現のサポートなどをして働きながら制作を続ける作家たち。寄り添うだけではない、共に居る方法がいろいろある。
25/4/19(土)