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中山 ゆかり
ライター
春の江戸絵画まつり 司馬江漢と亜欧堂田善 かっこいい油絵
25/3/15(土)~25/5/11(日)
府中市美術館
毎年春に江戸絵画の企画展を開催している東京の府中市美術館。これまでも「かわいい」や「ゆるい」、あるいは「怖い」や「変な」江戸絵画の様々な魅力を見せてくれたが、今年の形容詞は「かっこいい」。主役は、西洋の油絵や銅版画をまねて洋風画を描いた司馬江漢(しば こうかん)と亜欧堂田善(あおうどう でんぜん)のふたりだ。どちらの作品も収蔵品のなかにあり、おりにふれて展示すると、来館者からよく聞かれたのは「かっこいい」という言葉だったとか。 そう言われると、確かにかっこいい。展覧会冒頭には、狩野派や円山派、琳派など、様々な画派の作品が並ぶが、そのあとに洋風画を見ると、新鮮さが際立つ。水平線が現れ、遠近感が生まれ、影が描き込まれた洋風画は、当時はまったく新しいものだったに違いないが、西洋の絵画や洋画に親しんでいる現代人には、リアルではあるものの、どこか不思議さをともなった魅力がある。西洋画に着想を得つつ、独自の画材を工夫し、日本の風景や人物を自分なりに洋風に描いた感の強い絵には、和洋のハイブリッドなかっこよさがあるのだろう。 ふたりの生き方もまたかっこいい。浮世絵師からスタートし、南宋画を学び、30代で西洋の画法を研究し、画家だけでなく学者や文人でもあった司馬江漢。覗き眼鏡と銅版画の眼鏡絵をセットで販売したり、捕鯨見物など珍しい体験を描き入れた旅日記を出版したり、世界地図や天球図を刊行したり。好奇心の赴くままに、世界をどんどん広げていったダイナミズムがある。一方、家業の染め物の仕事をしていたが、47歳のときに藩主の命で銅版画の技術を学び、洋風画家への道を歩み始めた遅咲きの亜欧堂田善。遠近法を駆使した奥深い構図、ユーモラスな人物描写、優れたデザイン感覚などが目を惹くが、特に緻密さと正確さが圧巻の銅版画の描写は、技法と造形をひたすら深く探究した成果だという。 ほぼ同年齢の同じ洋風画家ながら、異なる背景や方向性をもつふたりの画家——そのそれぞれの画歴をたどり終え、すっかり満足したところで、最後の章が待っている。両者の力量を示す大作や重要作を仲良く並べたこの最後の「作品選」も見応えたっぷり。来場者を満腹にさせてくれる展覧会構成もかっこいい。
25/4/20(日)