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パリ発、ヨーロッパで話題の作品を

佐藤 久理子

パリ在住、文化ジャーナリスト

IT'S NOT ME イッツ・ノット・ミー

『ポンヌフの恋人』『アネット』等で知られるフランスの異才レオス・カラックスが織りなす42分の映像詩は、もともと実現できなかったパリのポンピドゥー・センターの展覧会の代わりに、美術館側が彼に「いま君はどこにいる?」というテーマへの、映像による回答を求めた結果、出来上がった作品。ゆえに極めて私的なエッセイだ。 ノスタルジー、孤独、愛、悔恨と、あらゆる私的感情を行き来しながら、20世紀の歴史をも振り返る壮大なコラージュ、畳み掛けるように連なる映像と音のエネルギッシュな力に圧倒される。 失った近しい者たち(K・ゴルベワ、G・ドパルデュー、J・Y・エスコフィエ)を追悼するメランコリーの一方で、ドニ・ラヴァン演じるムッシュ・メルドと散歩するシーンがパンクなユーモアに満ちていて爽快。ラストも未来への希望を感じさせ、その生き抜く力の逞しさと美しさに打ち震える。

25/4/24(木)

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