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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

尾上菊之助改め 八代目 尾上菊五郎襲名披露 尾上丑之助改め 六代目 尾上菊之助襲名披露「團菊祭五月大歌舞伎歌舞伎座」松竹創業百三十周年

八代目尾上菊五郎襲名披露、そして六代目尾上菊之助襲名披露の團菊祭五月大歌舞伎のひと月が始まる。そして今月は源義経をめぐる狂言が昼夜で上演される。 義経に関連する狂言や舞踊は数多い。タイトルにもある『義経千本桜』、牛若丸にゆかりあるものとして『鬼一法眼三略巻』や『五条橋』、平家との合戦で次々と功を挙げ、義経絶好調時代を描く『熊谷陣屋』などがある。そして昼の部の『歌舞伎十八番の内 勧進帳』の源義経だ。ここでの義経は、既に鎌倉方に追われる身。幼い頃を過ごした奥州の藤原氏を頼って逃避行のさなかだ。 新菊五郎として歌舞伎座の舞台に最初に登場するお役が富樫左衛門。そして緞帳が上がり下手の五色のお幕が上がり、この『勧進帳』に最初に登場するのも富樫だ。武蔵坊弁慶を勤めるのは市川團十郎。待ってました、ブラボー! 團菊祭。新菊五郎が富樫で團十郎が弁慶、そして義経には中村梅玉ですよ! どんな緊張感が生まれるのだろう。絶対に見逃せない顔合わせです。 興奮はさておき。『勧進帳』は長唄の名曲であり、冒頭の義経の花道の出に使われる「寄せの合方」が始まると、「来た~~!」と一気にテンションが上がる。長唄など歌舞伎音楽になじみのない方でも、この曲のドラマ性と迫力にしびれるに違いない。鳴物、三味線、唄の音の粒が一挙に押し寄せる感覚だ。 その後の弁慶と富樫の問答は前半の最大の見どころの一つ。富樫は弁慶たちが本物の東大寺建立勧進の山伏かどうか確かめるために、その心得を一つ一つ問うていく。同行している強力が義経ではないかと見破られそうになり、強力をあえて打擲した弁慶に、「疑いは晴れた」と請け合う富樫。 「早まり給うな。番卒どものよしなき僻目より、判官殿にもなき人を疑えばこそ、かく折檻もし給うなれ。今は疑い晴れ候。疾くとく誘い通られよ」と、弁慶と義経の必死の覚悟を目の当たりにして心を動かされる。そして、「我はこれよりなおも厳しく警固の役目。方々来たれ」と、富樫は上手の臆病口を引っ込んでいく。富樫はあくまでも鎌倉幕府の役人。義経一行と気づかずに通したとしたのならもちろん、知って関を通したのなら重大な責を問われるだろう。腹を切るのかどうするのか。この後の義経一行の運命とともに、富樫の行く末にもついつい想像が膨らむ。 そして夜の部の『義経腰越状』「五斗三番叟」。こちらの義経は、平家討伐に功を挙げたが兄頼朝に謀反を疑われており、鎌倉近くの腰越で追い返されて都へ戻ってしまっている。『勧進帳』でもおなじみの忠臣・亀井六郎の言葉は聞き入れずに、錦戸太郎や伊達次郎らの佞臣にそそのかされ遊興三昧。『勧進帳』の前日譚に当たる日々の義経だ。 執権泉三郎は鎌倉軍襲来に備え、刀の目貫師に身をやつす五斗兵衛を軍師として連れてくる。だがこの男、大の酒好き。酔っぱらって、『阿古屋』でもおなじみの竹田奴を相手に踊る三番叟に注目だ。五斗兵衛には大坂の陣で豊臣方の武将として活躍した後藤又兵衛が、そして義経には豊臣秀頼が暗示されている。ちなみに頼朝は家康、泉三郎は真田幸村がモデルとされている。五斗兵衛を初役で勤めるのは尾上松緑、そして義経にはこちらも初役の中村萬壽。

25/4/23(水)

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