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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

ノスフェラトゥ

1960年代末から70年代にかけて、ヴェルナー・ヘルツォーク、フォルカー・シュレンドルフ、ヴィム・ヴェンダースなどドイツの若い監督によって、傑作佳作が多く作られた。彼らの何本かの傑作は、「ニュー・ジャーマン・シネマ」として世界映画史に刻まれている。 その佳作群のなかの一本に、ドイツ表現主義映画の代表的傑作といわれるF・W・ムルナウ監督の『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)をリメイクしたW・ヘルツォーク監督の『ノスフェラトゥ』(1978/日本公開1985)がある。ヘルツォークは、「ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』を原作としているのではなく、ムルナウ作品を原作として作った」と強調していた。本作『ノスフェラトゥ』はそのヘルツォーク作品同様、F・W・ムルナウ監督の『吸血鬼ノスフェラトゥ』にオマージュをささげ、リメイクした、正統的「吸血鬼映画」だ。 監督は『ライトハウス』『ノースマン 導かれし復讐者』のロバート・エガース。子供のころそのムルナウ版を観て以来、いつか自分なりの『ノスフェラトゥ』映画を作りたいと夢見てきた、とエガースは語る。驚くべきことに、彼は高校生のとき『吸血鬼ノスフェラトゥ』の舞台台本を書き、主演もしたという。「それがきっかけで監督になりたいと思った」、とも。 モノトーンに近い沈んだ色彩で描かれたトランシルヴァニア地方の不気味な雰囲気、霊気漂う伯爵の舘内セットの重厚感、正視できないほど恐ろしいノスフェラトゥのメイクなどなど、名作に対してのリスペクト感あふれるシーンの連続が素晴らしい。媒体資料によれば、その映画化は資金面やキャスティング面で二度挫折し、本作は三度目のチャレンジで実現した、とある。 夜な夜な夢の中で正体不明の男に襲われる主人公エレン役をジョニー・デップの娘のリリー=ローズ・デップ、オルロック伯爵を『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のビル・スカルスガルド、教授を怪優ウィレム・デフォーが演じている。第97回アカデミー賞で撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門でノミネートされた。吸血鬼映画はもう見飽きたという映画ファンもきっと満足できる、新たな「ノスフェラトゥ映画」の誕生を喜びたい。

25/4/29(火)

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