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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介
佐々木 俊尚
フリージャーナリスト、作家
異端者の家
25/4/25(金)
TOHOシネマズ 日比谷
モルモン教の布教というと、日本でもかつては自転車に乗って布教して回る二人組の白人青年をよく目にした(最近はあまり見かけない)。本作の主人公は、まさにこの布教活動をしている若いシスターふたり。とある一軒家を訪ねると、ドアを開けてくれたのは初老の男。演じるヒュー・グラントは、洒脱な恋愛コメディにたくさん出演していてそういうイメージが強いのだが、本作では異教を信じる奇怪な人物という新機軸の演技をしている。このやけに饒舌な男の気味悪さが実にリアルで、ヒュー・グラントって本当に巧みな人なんだなあとあらためて感心した。 『クワイエット・プレイス』の脚本コンビが監督・脚本というだけあって、同種の「脱出ホラー」仕立てになっているのだが、本作の魅力はそれにとどまらない。予告篇を観ただけではそこは伝わりにくいのだが、シスターふたりと男のやりとりが実に宗教というものの意味を鋭く突く対話になっていて、それだけでも見ごたえがある。信じるとは何か、宗教の本質とは何か、というものが対話を通じてあぶり出されていくさまは非常にスリリングである。そしてこの対話があるからこそ、終盤の驚くべき展開の怖さが生きてくる。単なる脱出ホラーではない映画的傑作。
25/4/29(火)