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水先案内人のおすすめ

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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介

佐々木 俊尚

フリージャーナリスト、作家

OKAは手ぶらでやってくる

カンボジアの貧しい村へと、いつも手ぶらでひとりでぶらりとやってきて、地雷で手足を失った人たちや子どもたちの教育を支援し「ひとりNGO」と呼ばれた故栗本英世さん。その人生をたどったドキュメンタリーである。 映像で見る栗本さんは、本当にただのおじさんで、ひたすらニコニコとしているだけだ。いったいこの人のどこにそんなエネルギーが秘められているのだろうと本作を観始めたとき不思議な印象になるが、物語が進み、彼の精神遍歴が語られていくうちに謎は氷解していく。 滋賀県の極貧の家で生まれ、上京して仕事を転々としながら、やがてキリスト教の伝道の道へと踏み込んでいく。高名な牧師に見いだされて、台湾への留学を経て、中国大陸への布教に乗りだす。中国共産党の厳しい宗教弾圧をかいくぐって布教をしていく話は、まるで江戸初期の隠れキリシタン時代の話のように恐ろしくスリリングだ。 海外布教だけではない。栗本さんはハンセン病患者の療養施設である多磨全生園でも支援活動を行った。そして衝撃的なこんなことを語るのである。「ちょっと極端だったんですけれど、自分の腕をカミソリで傷を付け、ハンセン病患者さんの膿をそこに塗りつけて、絆創膏を貼ったんです」「わたしもハンセン病患者になりたかった。ならないとここの人たちの苦しみが本当にはわからないから」。 たしかに「極端すぎる」ともいえる慈愛と求道の精神。それが彼の人生の基調となっている。素晴らしいが、誰にも真似できない聖人とはこのような人のことなのだろう。こういう人の人生に触れられるだけでも、本作は観る価値がある。

25/5/3(土)

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