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アニメも含め時代を象徴する映画を紹介
堀 晃和
ライター(元産経新聞)、編集者
新世紀ロマンティクス
25/5/9(金)
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
「瞳」の映画だ。主人公の女性の大きく開いた目が、恋人の視線を受け止め、スクリーンの向こう側にいる観客の心をとらえる。ふたりの心情が零れ落ちることなく、画面にみなぎる。中国の名匠、ジャ・ジャンクー監督の新作『新世紀ロマンティクス』がつむぐ出会いと別れの変遷に圧倒された。中国山西省の街・大同を主な舞台として、21世紀の始まりから20年余りにわたる恋人たちの人生が描かれる。 2001年夏、中国は2008年夏季五輪の北京開催が決まり、未来への期待に盛り上がっていた。大同でモデルをしているチャオ(チャオ・タオ)は、マネージャーで恋人のビンととともに充実の日々を送っていたはずだった。しかし、ビンは「他の土地で一旗あげたい。落ち着いたら迎えに来る」とメールを送り、チャオの前から消え……。 主演女優のチャオはジャ監督の妻。今回で長編のタッグを組むのは8度目という。女優は阿吽の呼吸で演出意図を読み取り、監督はどう撮れば、この女優が輝くのか熟知しているのだろう。チャオの表情をとらえたカットがどれも魅力的だ。 女優のジーナ・ローランズと夫で監督のジョン・カサヴェテスが遺した数々の傑作が頭に浮かんだ。本作も、忘れられない1本になった。
25/4/29(火)