評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
柔軟な感性でアート系作品をセレクト
恩田 泰子
映画記者(読売新聞)
骨なし灯籠
25/5/16(金)
YEBISU GARDEN CINEMA
昨年、熊本のミニシアターでロングランを記録。東京でも公開されることになったこの映画、澄みわたって濁りがない。舞台となる熊本県山鹿市の文化・風土を生かした物語の、真ん中にあるのは豊かなドラマ。妻の死を乗り越えられず、その遺骨とともにさまよっていた男が、山鹿でさまざまな出会いを重ねながら再生していくまでを描く。和紙で作られた伝統工芸品・山鹿灯籠、その一つである金灯籠を頭に掲げた「灯籠娘」が舞い踊る夏まつり、温泉、子どもたちの朝のあいさつなど、劇中には、山鹿のチャームポイントがたっぷり登場。それでも、観光映画、ご当地映画というにおいがまったくしないのは、それらがストーリーときちんと絡み合っているから。主人公を取り巻く人々がやさしすぎるほどやさしかったりもするのだが、きれいごととは思わない。不思議なこともあるけれど、うそを感じさせない。脚本・監督・編集の木庭撫子は、脚本家としてキャリアを重ね、2021年に山鹿に移住。元テレビマンの夫と二人三脚で本作を作り上げたという。土地の人と共に生きながら得た実感を、とことん誠実に表現した結果、この美しい初監督作が生まれた、ということなのだろう。大人による純粋な映画だ。
25/4/30(水)