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水先案内人のおすすめ

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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

国宝

3時間弱だが、1秒も退屈せず、あっというまだった。吉田修一の原作も上下2巻の長篇だが一気読みしたのを覚えている。ある歌舞伎役者が少年から人間国宝になるまでの半世紀を描いた原作を、ある時代にしぼるのではなく、そのまま映画化したので、3時間近くになるのも当然。 原作もそうだが、現実の歌舞伎と同じなのは演目だけで、歌舞伎役者の誰かをモデルにしているわけではなく、また、この物語で描かれる「歌舞伎界」も現実のものとはまったく異なる世界観で設定されている。 映画では、現実の歌舞伎役者は中村鴈治郎しか出ていないし(原作の小説段階から協力している関係での出演)、歌舞伎役者の娘である寺島しのぶが出るくらいで、「松竹大歌舞伎」とは別の世界。だから、東宝が中心になって映画にしたのだろう。 歌舞伎の女形が主人公なので、劇中に歌舞伎のシーンがふんだんにある。主人公とそのライバルの、吉沢亮と横浜流星は舞台のシーンでも健闘。歌舞伎ファンからすれば違和感はあるだろうが、指揮者やピアニストを主人公にした映画での演奏シーンだって、クラシックファンが見たらおかしいわけだから、許容範囲。劇映画と割り切って見ればいい。 若い2人を圧倒するのが、田中泯が演じる名女形。なんとなく6代目中村歌右衛門を思わせる、狂気をはらむ妖艶さ。いまの歌舞伎役者にはない恐ろしさがある。大幹部役者を演じる渡辺謙も、役者の持つ狂気と絶望を熱演。 小説ではラストシーンが映画的で「おお、これはすごい」と思ったものだが、映画では異なる。映画的であるがゆえに、映像にするのは難しかったのだろうか。

25/5/11(日)

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