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白坂 由里
アートライター
望月桂 自由を扶くひと
25/4/5(土)~25/7/6(日)
原爆の図丸木美術館
長野県安曇野市生まれの望月桂(1886-1975)は、東京美術学校(現・東京藝術大学)卒業。芸術革命を説き、日本で最も早いアンデパンダン展(誰でも参加できる無審査展)の一つと言われる芸術団体「黒耀会」を結成した美術家だ。「腹が減ってはどうもならん」と一膳飯屋「へちま」を営み、労働運動家、文学や音楽、演劇などの表現者、編集者など自由を求める人々が集う「場」もつくった。 戦前は工業化批判、貧しい人々のための相互扶助などを訴え、戦後は帰郷して農民運動をしながら風景画を描くなど、「生活即芸術、芸術即生活」を貫く。 同展は、3年前に批評家、キュレーター、アーティストらで「望月調査団」を結成し、油彩画や水墨画などの作品、全71冊もの日記や回想録などの資料整理を進め、その成果を初公開している。例えば、イタリア未来派が描く“機械化する未来”に抗うように、荒波に巻き込まれる女工の様子などを描いている。 調査団に参加した卯城竜太、風間サチコ、松田修も、赤瀬川原平らの「反芸術」などに通じるものを感じ取った。とりわけ松田の映像作品が印象深い。関東大震災直後に大杉栄と伊藤野枝を殺害した陸軍への報復が未遂に終わり、獄死した俳人で無政府主義者の和田久太郎を支援していた望月は、和田の遺灰で育てた花を押し花にして仲間に贈った。その行為をメールアートと捉えた松田の映像作品《この世からの花》は現代からの返歌だ。望月桂の名は今後の美術史にどう加えられていくだろうか。
25/5/17(土)