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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
ガール・ウィズ・ニードル
25/5/16(金)
新宿ピカデリー
戦後不景気な時代、デンマークで実際に起こった最悪の連続殺人事件をベースに、ひとりの若き女性の転落の人生を描いた本作。しかも彼女は自ら落ちていくのではなく、周囲によって落とされていくのだ。「面倒なことは起こさないでくれよ」と公衆浴場でのシーンで、ある女性が彼女に言うのだが、本作の特徴は、見て見ないふりをする社会がモンスターを生み出すという構図だ。 モノクロームにより、大量の血は冷血さを演出。感情を逆撫でするようなサウンドは、主人公カロリーネを追い詰める社会のようだ。冒頭、ある母子が、些細なことで娘を叩くシーンがある。そこに夫は居ない。物語が進むと戦後であることが分かるのだが、戦争から帰って来ても深い傷により、酷い扱いを受ける男性の姿も映し出される。女性ひとりが子育てをする難しさ、貧困により強いられる苦渋の決断。カロリーネには友人は居るが、結果を話すだけで誰にも相談することもない。それは選択する道がないほど、多くの人が貧困で行き詰まっているからだ。そう考えるとタイトルは、秀逸だと思う。彼女の人生は針と共にある。痛い思いをしながら生き続けないとならないのだ。
25/5/27(火)