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いまみるべき1本を毎日お届け!
小劇場から大劇場まで、年間300本以上観劇。素晴らしい舞台に出会うため、気になる作品は何でも観ます。
森元 隆樹
演劇ジャーナリスト/プロデューサー/演劇伝道師/読売演劇大賞選考委員
iaku『はぐらかしたり、もてなしたり』
25/6/27(金)~25/8/3(日)
シアタートラム、吹田市文化会館(メイシアター) 中ホール、四日市市文化会館 第2ホール、穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール/アートスペース
iakuを旗揚げして以来、主宰であり作家の横山拓也は、性的マイノリティの問題であったり、加害者と被害者の関係性であったり、組織ぐるみの隠蔽が引き起こす重大事件であったりといった社会問題を主軸に据えて、その狭間で葛藤する人間たちの姿を描いてきた。さらに横山作品には、若くして病に侵されてしまい、抱えきれないほどの不安の中で生きる人の姿や、母親の病死を自分のせいだと思い込み、心の底に横たわる息苦しさとともに生きてきた人など、個人のセンシティブな問題に深くアプローチした戯曲も多い。そしてその筆致は、普段の何気ない会話が次第に人間関係にさざ波を立てていく様を丁寧に描いており、昨今、横山拓也作品への注目度は、大いに高まっている。 その横山が今回、ラブコメディに挑むという。 <<<>>> (前略)20〜40代の未婚者の7割に恋人がいない時代だそうです。「それでもドラマに恋愛は必要なのか?」と思ってしまいますが、むしろ、恋愛はフィクションとして楽しむモノという人が多いのかもしれません。「推し活」なんかもたぶんそういうことなのでしょうね。拙作でも、滑稽な色恋沙汰や、身につまされるような片想い、哀れな大人の失恋など、様々な「恋愛あるある」を描いてきたような気がしますが、今回、さらに掘り下げて、もっとザラザラした手触り、ギラギラした想いにフィーチャーしてみます。大胆にも「ラブコメディ」と銘打ち、これまでのiakuと少し違うアプローチで新奇な作品をお届けしたいと思います。どうぞご期待ください。 <<<>>> 劇団ホームページにそう記されている本作『はぐらかしたり、もてなしたり』。思えば6年前、劇団MONOのコント公演(『涙目コント』2019年8月/三鷹市芸術文化センター 星のホール)に横山が提供した戯曲は、笑いに満ちていながらも、どこか哀愁を帯びた素晴らしいコント作品であったし、昨年9月にPARCOで上演された『ワタシタチはモノガタリ』や、本年2月に新宿眼科画廊で上演された朗読劇『ユアちゃんママとバウムクーヘン』も、大きな社会的なテーマを主軸に据えてはいなかったが、会話の中から滲み出るように登場人物の奥行きが広がっていく脚本は、かなりの面白さであった。 そう、人間をきちんと書ける横山拓也の戯曲は、社会的な問題やセンシティブなテーマを主軸に置いた作品も、ことさらに問題提起を浮かび上がらせずに描いた作品も、どちらも甲乙つけがたいほどの味わいなのである。 <<<>>> 妻が2年ぶりに帰ってきた。ほとんど何も言わずに出ていった彼女。若い頃に良くしてくれた上司が大病を患ったと知り、その最期をお世話して、見届けてきたという。もうこの家には帰ってこないと思っていた。こちらも2年の間に色々とあって、その色々について話さなくてはならない。たとえば、猫のことや、家のこと。そして、愛のことも。 昨年から今年にかけて、第27回鶴屋南北戯曲賞、第59回紀伊國屋演劇賞(個人賞)を受賞した横山拓也が、これまでのiakuとは一風変わった趣向で作劇し、「愛情」の本質に迫る。 (劇団HPに記載された「イントロダクション」より) <<<>>> 瓜生和成(小松台東)、近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)、異儀田夏葉、竹田モモコ(ばぶれるりぐる)、富川一人(劇団はえぎわ)、井上拓哉、高橋紗良、 小林さやか(トローチ)という、脚本と演出の意を汲んだ魅力的な俳優たちの演技からも力を得て、横山拓也が新しいiakuの扉を開ける、その舞台を注目して待ちたい。
25/6/2(月)